novel2

□不満は有っても、愛が有る
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「私、もう1つ不満が有るの」

仕事から帰って来た俺を出迎えたのは、両腕を組み僅かに眉間に皺を寄せたエクセラとその言葉だった。
前回の事もあり、今度は何だと焦ってしまう。

「それは……?」
「夜寝る時よ」
「詳しく言うと…?」
「どうして私の方を向いて寝てくれないの?朝起きても貴方の背中が目の前にあって私…寂しいわ」

そう言ってエクセラは切なげに目を伏せた。俺には、そうしている自覚は全く無いのだが、エクセラが寂しいと言うのだ、そのままにはしておけない。
俺はすぐにエクセラを抱き締めてやる。

「悪かった…今日からはお前の方を向いて寝るようにする」
「……絶対よ?」
「ああ」

俯いていたエクセラの顔が上げられ、俺は軽く口付けた。

「…もし、眠る時私に背中を向けてたら……」
「向けていたら…何だ?」
「私、今度からゲストルームで寝るわ」
「!」

エクセラのその言葉に益々、眠る体勢に意識を向けなければならなくなった。

(これは…意地でも守らねばならん)

固い決意を胸に秘め、夜を迎えた。
その日は、エクセラと久しぶりに2人で風呂に入り、互いに全裸ということで必然的に激しい情事にもつれ込んだ。あらゆる意味で熱い風呂から上がり、エクセラの長い黒髪をドライヤーで乾かしてやる。さらさらと指の間を滑っていく髪に、内心うっとりとした。すると、エクセラが俺の髪を乾かしたいと言うので、好きにさせた。しなやかな女の指が髪を撫でる。それがとても心地よく、ウトウトとしてしまう。

「もう乾いたかしら」
「………ああ…」
「ふふっ…眠くなっちゃったの?アルバート」

俺の背後でエクセラはくすくす笑うと、先にベッドに入ってて良いわよ、と言い寝室を出ていった。その言葉に甘えることにし、ベッドに潜り込んだ。
柔らかなベッドに体が沈み、急速に眠気に襲われた。まだ眠るわけにはいかないと、必死に重い目蓋を上げるがそれも長くは続かず目蓋が完全に閉じた。

「アルバート…?」

(戻って、来たのか…)

エクセラの己を呼ぶ声に目蓋を上げようとするが、うまくいかない。しかも、次第に意識が遠退いていくのが分かる。

「アルバート……を…………いの…?」

エクセラが何を言っているのかすら、よく分からなくなった。

(……すまん…エク…セ、ラ……)

心の中でエクセラに謝罪し、ふっと意識を手放した。




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