novel3

□愛してた、今もまだ愛してる
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一ヶ月振りにアルバートの家の前に立った。私は、恐る恐るインターホンに手を伸ばした。

―――ピンポーン

その音は家の中で鳴っているのだが、私にはそれがとてつもなく大きな音に聞こえた。三十秒もしないうちに玄関が開かれた。現れたアルバートは私の姿に驚いた様子はなく、平然としていた。
それが、私を酷く緊張させた。

「忘れ物を、取りに来たの。それさえ見つかればすぐに帰るわ」
「……入れ」

アルバートは、驚く程あっさりと私を家へ招き入れた。私は、玄関のドアを押さえてくれているアルバートの横を通り、家に上がった。
家の中は一ヶ月前と全くと言っていい程変わっていなかった。家具の位置もソファに置かれたクッションでさえも、全く変わっていない。それが懐かしくて、少しだけ寂しく思えた。

「好きに探すといい」

振り向いてみれば、廊下へと通じるドアにアルバートが腕を組んで寄りかかっていた。私はアルバートからの痛い程の視線を感じながら、懐中時計を探した。
リビングの隅から隅までを探したが、そこには無かった。寝室も同様に探したが、そこにも無い。もしや、なくしてしまったのかと途方に暮れていると、アルバートが私に声を掛けた。

「一体何を探しているんだ?」
「…時計よ、懐中時計」
「懐中時計…………これの事か?」

アルバートはズボンのポケットから、あるものを取り出して見せた。それは、金色の懐中時計だった。まさしく、私が探していたものだ。私はアルバートに早足で歩み寄り、それを受け取った。
おもむろにそれの蓋を開けた。すると、ひび割れたガラスではなく、綺麗なガラスに変わっていた。しかも、カチカチと秒針が時を刻み、正確に今の時間を報せていた。
時計に落としていた視線を、ぱっとアルバートに向ければ、アルバートは肩をすくめて見せる。

「治してくれたの?」
「持ち歩ける時計が無かったんだ」
「そう…ありがとう」

私の為ではないと分かっていても、これが元通りになっていた事が嬉しくて、私はアルバートに礼を言った。





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