novel3

□愛してた、今もまだ愛してる
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アルバートと喧嘩をした。喧嘩と言っても、完全に一方的なのだが。

ある日、私の大切にしていた懐中時計がアルバートによって壊されてしまった。でも、故意にやった事ではない。私がアルバートのコートの上にそれを置いていたからだ。アルバートはその事を知らず、コートを着た。その際にそれが床に滑り落ちてしまい、時計盤のガラスが割れてしまったのだ。
原因は私かもしれないが、アルバートは少しも悪びれた様子もなく、そんな所に置いておくのが悪い、ときっぱりと言った。それは正論なのだが、少しくらい謝るとか悪いと思うかぐらいしなさいよ、と私は声を荒げた。すると、アルバートはそんな私に五月蠅い、出ていけと言ってのけた。
さすがに頭にきて、私はマンションの一室を借り、アルバートの家にある私物を少しずつそこへ移すことにした。

―――そして、私は今一人暮らしをしている。この部屋で暮らし始めて、一ヶ月が過ぎた。
私は広い部屋で一人、ソファに座ってテレビを見ていた。一人きりで過ごす休日は実につまらないものだ。私はふと、アルバートとの生活を思い出した。一ヶ月前まで居たあの家は、静かだったけれどあれはあれで幸せだったと思う。
リビングのソファにはいつもアルバートが居て、私は当然のように隣に座った。すぐ傍にある逞しい肩や腕に体を預ければ、優しく頬を撫でてくれる大きな手。そんな風にアルバートが私に触れれば、私の胸はじんわりと温かくなった。アルバートが私の名を呼べば、私の動悸は速さを増した。
そんなアルバートが、今は近くに居ない。けれど、この現状は私が自ら選んだ事。今更、それが恋しくなったからといって、私から戻りたいなんて言えない。
まして、私達は恋人などではないのだから、一緒に暮らすというのもおかしい。逆に、今が正しいのだ。

(…………でも)

私は、アルバートを愛していたのかもしれない。アルバートの傍に居て、あんなに喜んでいたこの胸が、今では凄く寂しがっているのだから。





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