novel3

□とっくに愛してた
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数多の機材に囲まれた研究室。
ふと、幾つかのモニター画面の内の一つに目を向けた。被験体である男が椅子に腰掛け、ぐったりとうなだれている。暫くそのまま身動きひとつ取らなかったが、やがて勢い良く顔を上げ、天を仰いだ。そして、体をガクガクと激しく痙攣させる。見ると、男の肩や腕、腹、脚など、身体中から無数の触手が突き出していた。男の体にまとわり付く触手はやがて、シュル、と男の体内に戻っていく。触手が突き破った皮膚は驚異的な治癒力で、再生していた。
幾人もの被験体がこの段階までたどり着いたが、完全な生物兵器には至らない。何故なら、此処からが山場なのだ。
じっとモニターを眺めていると、男は急に苦しみ出し床に倒れ込む。次の瞬間、男の体は漆黒の触手に覆われた。ふた回り程肥大した触手の塊に、俺は小さく溜め息を吐いた。

「処分しろ」

マイクのスイッチを入れ、淡々とそう言った。すると、被験体の男であったものが居る部屋のドアが開き、数人の武装したマジニが現れた。マジニ達は触手の塊に鉛の雨を降らせ、露になったコアに小型火炎放射器で燃やしにかかる。その猛攻に不完全なそれが適う筈も無く、触手はドロリと融けだし、宿主もろとも消え失せた。また一人、実験台を失った。
俺は、ソファの背もたれにぐったりと体を預け、顔を片手で覆った。
体に熱が集まっている。下腹部はズクリと疼き出し、精を吐き出す場所を探すように、頭をもたげた。漆黒の闇―――ウロボロスに飲み込まれていく被験体を見る度に、無性に人肌を味わいたくなる。人間の生気を感じたいのだろうか。
また一つ溜め息を吐くと、くすぶる熱の捌け口を探す為、研究室を後にした。
しかし、今すぐにでも抱けそうな女が見付からず、一先ず自室に戻る事にし、ドアノブに手を掛けた。カチャリと音がしてドアが開く。自室に足を踏み入れれば、資料等がある本棚の前に見慣れた人物の姿が目に入った。その人物は俺に気付くと、手にしていた本を元あった場所に戻し、妖艶な笑みをこちらに向ける。

「遅かったわね。待ちくたびれたわ」
「…エクセラ」

エクセラはゆったりとした足取りで俺の方へ、歩み寄ってくる。そして、正面から無遠慮に抱き付いてきた。
胸板に頬を付け、両手を背に回して体を密着させる。必然的に豊満な胸が押し当てられた。柔らかな感触を布越しに感じ、情欲が掻き立てられる。それでも、平常心を保ち続けた。

「何故、此処に居る?」
「うふふ…決まってるじゃない。……人肌恋しいんでしょ?」
「…………」

いきなり核心を突かれ、不覚にもピクリと反応を示してしまった。そんな俺に、エクセラは誘うように目を細め、俺の腹から頬にかけてゆっくりと右手を滑らせた。

「私が……鎮めてあげるわ…」





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