novel3

□寒空の下で君の温もりを奪っていくよ
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いつもと代わり映えしない日曜日。仕事のある平日よりもゆっくりと目を覚まし、少しばかりベッドの中で何度か寝返りを打つ。そして、漸く目が覚めた所で少し遅めの朝食を―――


「馬鹿な事考えてないで、さっさと起きなさい」
「……相変わらず手厳しいな、エクセラ」


背中に感じた鈍い痛みと、グリグリと踏み躙られ、苦笑する。仕方なくゆっくりと重たい体を起こし、ベッドの横を見やった。
そこには、腕を組んで冷ややかにこちらを見つめるエクセラの姿があった。ベッドの端に掛けられた足が、俺を誘う。だが、ここでその足に手を滑らそうものなら、鋭い張り手が俺の頬を襲うだろう。
いつもなら、何も言わずに直ぐ様着替えを始める所だが、今日は少しばかり違う反応を見せてやった。


「先に行っていろ、後から行く」
「!………分かったわ」


いつもと違う事に気付くと、エクセラは目を泳がせた。そして、くるりと背を向けて寝室を出て行った。その後ろ姿に俺はほくそ笑んだ。
エクセラは大きな変化には然程驚きもしないが、ごく小さな変化にはらしくなく戸惑ってしまう。


(普通は逆だと思うがな)


先程のエクセラの戸惑ったような表情を考えながら立ち上がる。乱れたベッドをそのままに、素早く着替えを済ませ、ダイニングへと向かった。


「…待っていたのか」


ダイニングテーブルの椅子に座って、珈琲を味わっているエクセラにそう声を掛ける。エクセラは、正面に座った俺をちらりと見やり、小さく溜め息を吐いた。


「貴方が一緒に、って言ってるくせによく言うわ」
「ああ、そうだな」


俺がそう言うと、エクセラは静かに朝食を食べ始める。それを見てから、同様に朝食に手を付けた。
朝食が終われば、エクセラは洗い物をする為にキッチンへ。俺は、珈琲を片手にリビングのソファに腰を下ろした。
カーテンの開かれた窓からは、眩しいくらいの朝陽が差し込んでいる。その暖かさに、睡魔が襲い掛かってくる。俺は、膝の上にある本を閉じ、ソファの背もたれに頭を預けて目を閉じた。


(このまま、眠ってしまいそうだ…)


不意にソファが揺れた。薄く目を開いて隣を見ると、至極近くにエクセラが座っていた。膝の上の重みがなくなり、エクセラの手には本が。
僅かに触れ合っている肩や腕から、温もりを感じる。その温もりが俺を安心させた。もっと近くにそれを感じたくて、細い体を抱き寄せた。
嫌がると思っていたが、エクセラは俺の胸板に頬をくっつけており、大人しい。


(珍しいな…)


小さく震えた長い睫毛が、酷く扇情的に見えた。白く滑らかな額にささやかなキスを落とす。すると、俯き加減だった顔をあげたエクセラが俺を見つめた。
俺は、鼻先どうしが触れそうな程近付き、目を細めた。エクセラは、条件反射とばかりに目蓋を閉じる。
ふっ、と笑みを浮かべ、望むままに唇を合わせた―――。






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