novel2

□溺れる愛
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コンクリートに覆われた、研究室の通路。そこに備え付けられている窓から見える景色は、生憎の雨模様。それは、見る者の心を沈ませる。けれど、私の心は晴れやかだ。
それもそのはずだ。何故なら、もう少しで自分が好意を寄せている者に会えるのだから。
高鳴る胸を押さえ、目の前のドアを軽くノックした。

「…入れ」

中から聞こえた低い声に、ぞくりとした。何とかいつもの冷静な態度を装い、部屋に入った。
部屋の中央にある革張りのソファの上に居たのは、長身で金色の髪を携えた黒ずくめの男。私はその男に歩み寄ると、書類を差し出した。

「もう少しで完成するわ。アルバート」

アルバートは私の手から書類を受け取り、1枚ずつ目を通し始めた。私は、そんなアルバートの隣に腰を降ろし、ぴったりと体を密着させた。服越しに感じる体温に胸が弾むのが分かる。

「…おい」

不意に身を寄せる私の目の前に書類の束が現れた。無視しようと、より一層体を密着させれば、アルバートの手が私の腕を掴んだ。

「……いいじゃない、もう少しくらい」
「こんな所で時間を使う必要はないはずだ。研究室に戻れ」
「で、また研究をすればいいの?」
「分かっているなら、早くしろ」

アルバートに促され、仕方なく書類を受け取ったが、ソファから立ち上がろうとはせず、空いている方の腕をアルバートのそれに絡ませた。尚且つ、胸の間に腕を入れることは忘れない。

「…何のつもりだ」
「あら、分かってるでしょう?今、この部屋に……私達しか居ないのよ…?」

私の腕を掴む手を優しく振りほどき、アルバートの頬に手を添えた。ゆっくりと手を滑らせ、薄い唇をなぞった。

「……くだらん」

アルバートの唇が動き、そう言葉を発すると、私の誘いを拒むように立ち上がった。

「こんな所で時間を無駄にするな。研究室に戻れ」

私に背を向けたまま、アルバートは早口にそう言った。私は小さく溜め息を吐き、同様にソファから立ち上がり部屋を出た。
音を立ててドアが閉まる。そこに背中を付け、2度目の溜め息を吐いた。

(とっくに気付いてるでしょうに……)

私がアルバートに好意を寄せていることを。そして、好きな男に抱かれたい気持ちも。けれど、あの手この手で誘ってみたが、一向に手をだそうとはしない。

(私を部下と同じような扱いで……)

少しくらい1人の女として扱って欲しい。そんなことばかりを考えている。

(……こうなったら…)

仕方ないわね、そう呟くと妖しく笑みを浮かべ再び長い通路を歩き出した。





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