novel2

□過去拍手A
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「……雨か、面倒だな…」

やかましいくらいに音を立てて降る雨に、思わず溜め息を漏らした。家を出る時に、念の為に持ってきた黒い傘をさして会社を出た。






「……にゃー…」
「……?」

ふと小さな鳴き声が聞こえ、道端に目をやった。そこには、全身びしょ濡れの薄汚れた猫が1匹、こちらを見ていた。大きな目は、澄み切った綺麗な灰色をしていた。
立ち止まって猫を見つめていると、猫は俺の方へ歩み寄って来る。

「にゃー」

猫は小さくひと鳴きすると、俺の足に体を擦り寄せた。

「にゃー」
「…悪いが、お前を連れて行く気はないぞ」

独り言のようにそう言い、足を動かした。





家に着き、玄関の鍵を開ける。

「…にゃー」
「!」

猫の鳴き声がした方を見れば、先程の猫が足元に座り込んでこちらを見ていた。

「……ついて来たのか」
「にゃあ」

俺の言葉が分かっているかのように、鳴き声を出す。

(……仕方ない)

玄関を開け、足元の猫に目をやった。

「入るなら入れ」

そう言えば、猫は足早に家の中へ入っていく。俺はさしていた傘を閉じ、軽く水気を飛ばして、猫の後を追うように家の中へ入った。
靴を脱いで、猫の付けたであろう足跡を追い猫を探す。猫は廊下をウロウロとしており、すぐに確保した。猫を抱き上げ、脱衣所に行き猫を降ろした。

(……洗ってやるついでに俺も入るか)

そう思い、服を脱ぎ捨て、風呂場への扉を開け、振り返った。

「来い、猫。洗ってやる」

そう呼んでから、猫が水嫌いだということを思い出した。だが、その猫は呼ばれるままに素直に風呂場に入った。

(…ほう。珍しい猫だ)

扉を閉め、シャワーを出してみたが、猫は逃げる素振りを見せない。これは好都合と猫の体にシャワーを浴びせ、シャンプーで洗う。体に付いた泡を洗い流してみれば、猫の真っ白な毛が現れた。猫を洗い終え、俺もシャワーを浴びた。その間、猫は隅でじっと俺を見つめていた。
シャワーを止め、風呂場を出る。自分の体を拭き、腰にタオルを巻き付けた。

「……拭くぞ」
「にゃー」

しゃがみこんでバスタオルを手に、猫を見て声を掛けた。猫は俺の前まで来ると、座り込んだ。軽く猫を拭いてやり、バスタオルにくるみ、抱き上げてリビングへ向かった。
ソファに猫を降ろし、服を着て、ドライヤーを持ち出した。コンセントを繋ぎ、猫に向けて温風を出す。それすらも、猫は気にしていないようで、目を閉じて風を浴びている。

「ククク…おかしな猫だ」

何事にも動じない猫に思わず、口角が上がる。
そして、暫くすると猫の体は完全に乾いたようだ。ドライヤーを片付け、猫の背を撫でると、ふわふわとした良い手触りがした。

(…そろそろ、寝るか)

ソファから立ち上がり寝室へ向かえば、猫は当然のようについて来た。俺がベッドに入れば、猫もベッドに潜り込んだ。

「ここで寝る気か?」
「にゃー」
「…まあいい」

猫の温かな体温を感じながら、眠りに就いた。




















(……何だ…?)

微かに女の声が聞こえ、だんだんと意識が浮上していく。

「………ねぇ」

まだ完全に眠りから醒めていない目を、無理矢理こじ開けた。

「あら、やっと起きたの?」

今度は、はっきりと聞こえた女の声。瞬きを繰り返し、視界をクリアにすれば、1人の女の姿を捉えた。
女の顔立ちはよく整っており、美人という印象が強い。長く艶のある黒髪を1つに纏め、何故か服を着ておらず、豊かな2つの胸が露わになっている。

「……どうやって入った」
「どうやって?貴方に入れて貰ったわよ?昨日」
「昨日…?」
「まあ、もう忘れたの?」
「俺は女など入れた覚えは……」
「女は入れてなくても、猫は入れた…でしょ?」

俺の言葉を遮って女がそう口にした。まさか、と思い女に問い掛けた。

「お前は、昨日の…猫、か?」
「ふふっ…思い出してくれた?エクセラっていうの、私の名前」

よろしくね、そう言って女――エクセラは俺に、微笑みかけた――――。





某日、猫を拾う。


(その日から、猫との共同生活が始まった)






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