novel2

□裏表な心と体
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「愛している」
「……どうしたの?突然」
「喜ばないのか」
「喜ぶ?喜ぶも何も、そんな感情が籠もっていない愛してるなんて言われた所で、嬉しくもないわよ」

エクセラは、コツコツとヒールの音を響かせながら、部屋を出て行った。パタン、と閉まったドアを眺め、俺は僅かに首を傾げた。
何故、愛していると言われたにも関わらず、エクセラは喜ばないのか。女ならば、自分が好意を抱いている男にそう言われたとしたら、頬を赤らめ喜ぶものなのだろう。だが、エクセラは頬を染める事も喜ぶ事もなく、淡泊な態度をとった。

(……喜ばないということは、俺に好意を抱いていないということか…)

そういう事か。納得した。
納得したはずなのだが、この焦りにも苛立ちにも似た感情は何なのか。
エクセラが俺に、好意を抱いていないと分かった。ただそれだけの事だ。
よくよく考えてみれば、俺の行動の方が分からない。俺は何故、エクセラに愛していると言ったのか。俺は何故、エクセラにそんな言葉を言おうと思ったのか。



俺は、頭のどこかでエクセラに好意を抱いていたのだろうか。



気付くと、俺は部屋を飛び出していた。勢い良く開けたドアが壊れそうな音を立てたが、そんな事は気にならなかった。一刻も早く、エクセラに伝えなくてはならないような気がしてならなかった。
たった1人の女の為に、ここまで必死になっている自分が信じられない。
そして、漸くエクセラを見付けた。エクセラは、研究施設の屋上に居た。フェンスに指を掛け、ただただ空を眺めていた。俺は自らを落ち着かせる為、ゆっくりとエクセラに歩み寄った。

「………エクセラ」

名を呼ぶとエクセラはチラリと俺を見たが、すぐに再び空を仰いだ。その横顔は、少しばかり切なげに見えた。そんなエクセラに、息が詰まった。俺は、衝動的にエクセラの体を抱き締めていた。

「……愛している」
「ふふふ…また言いに来たの?」
「……愛している」
「…………本当に愛してるなら、ちゃんと目を見て言って」

俺は、掛けていたサングラスを床へ投げ捨てた。カシャン、と音を立てたそれからエクセラへ視線を戻し、頬に手を添え、澄んだ瞳を見つめた。

「愛している」

出来る限りの優しげな声でそう言った。少しの沈黙の後、エクセラの頬がふっ、と弛められた。

「私も…愛してるわ」

エクセラの微笑みと、愛しているという言葉。それが全て、俺に向けられているものだと思うと、胸に込み上げてくるものがある。
だが、今の俺には、それが何なのかはよく分かっている―――。





-end-










無自覚?そんな事ない。分かってきた(・ω・)


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