novel2

□裏表な心と体
3ページ/5ページ







たまたま通りかかったドアの前でぴたりと足を止めた。ドアの向こうから聞こえてきたのは、エクセラの声だった。そのドアは、エクセラの部屋のドアなのだと気付いた。何やら、誰かと話をしているらしい。だが、エクセラの声しか聞こえてこない。電話をしているようだ。
俺は、ノックもせずにエクセラの部屋の中に入った。音も立てずに入ったからだろう、エクセラはこちらを振り向く事無く、通話を続けている。
ソファに腰掛けているエクセラに、背後から忍び寄った。エクセラは相当、通話に夢中になっているようだ。
そんなエクセラに、悪戯心が芽生えた。にやりと口角を上げ、エクセラを見下ろした。

「ふふふ…そうね、私は…きゃあっ!?」

エクセラの首筋にキスを落とせば、楽しげな声が悲鳴のような声に変わった。びくりと跳ねた肩を抱き締め、首筋に吸い付いた。

「っアルバート!」

エクセラは振り向きもせず、俺の名を呼んだ。俺は、エクセラの左手にある携帯をスッ、と奪い去った。ブチリと通話を終了させ、それを返してやる。

「ちょっと、勝手に…!」
「……気に入らん」
「?何言ってるのよ」

苦笑するエクセラをソファから軽々と抱き上げ、そのままソファに腰を下ろした。エクセラの顔中にキスの雨を降らせた。

「…っ…ちょっ、と…アルバート!」

エクセラの手が俺の口元を押さえた為、仕方なく顔を遠ざけた。

「もう……何怒ってるのよ」
「…怒る、だと?」
「だってそうじゃない、眉間の皺。凄いわよ?」

言われてみれば、顔が強張っている気がする。だが、このもどかしさの意味が分からない。

「それにさっき言ってたじゃない。気に入らん、って。それって、私が電話に夢中になってたからでしょ?」

確かに言った。しかし、理由など俺にも分からない。

「……分からないの?」
「…………」
「しょうがないわね……」

エクセラは俺の膝から降り、再び携帯を取り出した。カチカチと携帯を操作し、耳に押し当てた。そして、楽しげに話し始めた。

(…何だ?気に入らんな……)

俺に目もくれず、携帯に向かって話すエクセラが苛立たしく思えた。俺はエクセラを抱き締め、携帯を床へ放り投げてやった。携帯は、カバーと電池パックが外れ、俺が通話を終了させるまでもなく、強制終了した。

「……壊れたらどうするのよ」
「新しいのを買え」

エクセラは溜め息を吐いていたが、俺の背に手を回し、抱擁に応えた。

「それで?分かったの?」
「……ああ」
「ふふっ…そう」

通話に夢中なっているエクセラに苛立つのは、エクセラが俺を見ないから。電話の向こうにいる、顔も分からない人物に苛立つのは、単なる嫉妬から―――。





-end-
















自分じゃ分からないの(´ω`)


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ