novel


□琥珀の森
1ページ/3ページ


目が醒めたのは、真夜中のことだった。
暖かな闇の中で見ていた夢は、ひゅうと足先を掠めた、冬の刺すような冷気に掻き消され、思い出そうとしても、既にどんな情景だったのか再現できない。
窓を閉め忘れたのだろうか。両足を毛布の中に引き戻しながら、ドールは目を閉じたまま考えた。
出来ればこのまま、暖かさに包まれた夢の中に戻ってしまいたかった。けれど、外は雪が降っていた筈だ。
何もしなければ、その内部屋の中にまで雪が吹き込んで来るかもしれない。

「……」
どうしようか考えている内に、また眠りに落ちそうになる。
観念して少し身じろぎしてから、思いきってドールは両足を使って潔く布団をはね除けた。

「……!」
暗闇の中で、息を呑む微かな音が響く。
次第にはっきりとしてきた意識の中で、暗がりにぼんやりと映る人影と、見慣れた気配を感じて、ドールは部屋の一点を見つめた。
「……マテリア?」
「!」

ぎくりと振り返ったマテリアの表情を不思議に思いながら、ベッドの上で大きな伸びをする。
吸い込んだ息と共に、そういえば、ここは旅の途中の宿でも、野営しているテントの中でも何でもなく、自分の部屋であることを思い出して、ドールは急いで飛び起きた。

「な……!なんでマテリアがここに」
「し……静かに!」
侵入者は慌てた様子でドールの口元に手を当てると、辺りに気配を巡らせ、そして息を静かに吐いた。
「ウルウルが起きちゃうじゃない」
驚かせてるのはそっちだろと口を開きかけて、そのまま息を洩らす。

確かに、隣の部屋で眠っているウルウルに気づかれて、真夜中にマテリアが部屋の中にいるという、このややこしい状況を説明するというのは、出来るだけ避けたい。
ドールは、ベッドの端に掛けてあった上掛けを引っ掴んで部屋着の上に羽織ると、マテリアの手を無言で取り、呪文を唱えた。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ