novel


□今宵は月も笑う夜
3ページ/3ページ



ぱちりと目が覚めたのは、夜明け前だった。
まだ少し熱はあるようだが、幾分か身体が軽くなっている。
薬が効いてきたのだろう。

額の上からずり落ちそうになったタオルを直そうと手を上げようとして、ドールは初めていつもと違う状況に気が付いた。
すぐ傍で聞こえる微かな寝息。暖かい手。
(…なん、で?)
すぐには理解出来ず、靄がかかったかのようにはっきりとしない記憶を懸命に掘り起こす。

(お粥を食べたのは…覚えてる)
マテリアお手製の独創的なお粥を前に、つい先日までだったら、クリスが居たのに残念だなぁとからかって怒られた、と思う。

(それから薬を飲んで。それから…?)
多分、また眠ったのだ。
でもそれでは、今ここにマテリアが自分の手を握って一緒の布団に包まっている説明にはならない。

しばらく延々とループし続ける思考を巡らせ、やがてそれを放棄すると、ドールはふと隣に目を落とした。
見慣れた筈の寝顔。
いつもと違う気がするのは近すぎる距離のせいか、それとも薄闇に白く光る月のせいか。

(…気のせいだな、多分)
言い訳をするように空を仰ぐ。
次に目覚めたときには、何もかもいつも通りに戻っているのだろう。
それが嬉しいのかそうでないのか、今の自分には考えられもしないけれど。
意を決したように小さな咳を一つする。
それからドールは、マテリアにほとんど取られたケットをぐるぐると半分だけ取り返し、もう一度眠りにつくために目を閉じた。




■時期的にはGB2、バーバラ倒してクリスと別れた後くらいのつもりです。
めったに風邪引かない人が引くと、えらいことになるよねというお話。
この後はマテリアが慌て、ドールはそんな彼女をからかって、何事もなかったかのようにいつものパターンへ持っていくんじゃないかと思います。
自分で書いててなんですが、なんてヘタレなドールなんだ…



前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ