novel


□今宵は月も笑う夜
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再び眠りについたドールを確認すると、マテリアは食器を持ってそうっと立ち上がった。
(可愛い顔して寝ちゃって)
先程まで散々悪態付いてお粥を食べていたドールは、今は子供のようなあどけない表情で眠っている。

今のうちに片付けをして、それから、作りかけだったキャンプセットの屋根を張ってしまおう。
今は寒い時期でもないし、モンスターも此処までは来ないだろうから、こうやって星空を眺めながら眠るのも悪くはないけど。

考えながら足を進めようとすると、くいと引っ張られる感触がして、マテリアは足を止めた。
そろそろと足元を振り返ると、薄目を開けてドールが服の裾を掴んでいる。

「ドール?」
そっと声をかけると、ドールは苦しそうに身じろぎした。
「マテリア」
寝ぼけているのだろう、焦点が合わないまま手を宙に伸ばす。
「嫌だ…行かないで」
力が抜けて、ぱたりと落ちていきそうになったドールの手を、慌てて掴んで支える。

そのままぺたんと座り込むと、マテリアはかろうじて持っていた食器を降ろし、恐る恐る掴んだ手を両手で握ってみた。
…熱い。
「ドール」
大丈夫、と聞こうとして途中で言葉を止める。

ドールはまた眼を閉じて寝息をたてていた。
いつもは冗談ばかり言って、強がってみせて、こんな言葉なんて絶対言わないくせに。
ぎゅっと握られた自分の手と、閉じた瞳に薄く滲む涙を見て、マテリアはため息ともつかない息を吐く。

「馬鹿、」
言葉とは裏腹に、頬が緩むのを感じながら、マテリアはもう一度長く長く息を吐いた。



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