novel


□今夜の星が流れたら
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空に薄く浮かぶ夏の雲が、茜色に染まって映る夕暮れ時。
昼間よりは少し涼しくなった風に乗って、何処からか子どもの歌う声が聞こえてくる。

開け放した窓から入ってくる歌声に、知らず知らずそのメロディーを口ずさみながら、マテリアは持っていた色紙に紙縒を通し、くるりと輪を作って結んだ。
手先は器用な方ではないので、こういう細かい作業は不得意なのだが、鮮やかな色紙やキラキラと光る紙飾りを見ていると、それだけで楽しくなってきてしまう。

鼻歌を歌いながら窓から身を乗り出し、慣れた手つきで短冊を作っては、庭に立てた笹にかけていると、隣で唸りつつなにやら書いていたドールが声をあげた。

「何?」
「えーと、それ」
顔を向けたマテリアの手にぶら下がる、『世界平和』と大きく書かれた赤い短冊をドールは指差す。
「ん、悪い?」
「悪かないけどさ」
不意にくつくつと笑うと、ドールはからかうように口元を緩ませた。

「マテリアは、それより『お嫁に貰ってくれる人が現れますように』とか、『料理が上手になりますように』とか書いておいた方が、いいんじゃないかと思って」
「あぁ…そういうのは多分、おじぃが書いてくれてるからいいのよ」
ほらあった、とマテリアは笹の中から一つの短冊を難なく選んで差し出す。

「…本当だ」
もっとマテリアが怒るかと思って構えていたドールは、幾分拍子抜けして答えた。
全くもって他人事な辺りが、彼女らしいと言えば彼女らしいが。
この調子では、フロイドの願い事はまだまだ叶いそうにないなと笹を眺めていると、ドールの短冊をひらりとマテリアが取り上げた。


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