LucianBee's

長い夜の前に
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ワビサビはよくわからないけれど
こういうのは、いいかもしれないと思った




長い夜の前に




「はぁ……あいつらといると疲れる」

せっかくのジャパンの旅館だというのに、浴衣を着流したジェシーが大きなため息をついた。
もちろん、ため息という意味では僕だって同じ。
部屋は六人で共同。
お風呂は宿泊客全員で共同。
湯上がりはミルクだと言われて、半ば強制的に飲まされた。
これがため息をつかずにどうしろというんだ。
けれども、落ち着きのある雰囲気や、イグサの香りのする畳というものは嫌いになれない。
郷に入ってはなんとやら。
僕もこのジャパンの旅館で、普段は経験できない事態を楽しもうと前向きになったところに、くだんのため息だ。せっかく上向きだった気分が一瞬でへし折られた。

「ため息はやめてくれるかなぁ……?」
「あぁ、悪いな……しかし」
「押さえられない気持ちはわかるよ。でも大人なんだから」

そう言って僕はこの狭い部屋を見回した。
とはいっても、今、この部屋には僕ら以外誰もいない。つい先ほど土産物を見に行くとヴァンとルークが残りの二人を連れだしたのだ。

「『旅館といえば土産物を見に行かないと』だ!?意味がまったくわからねぇ!」
「僕も理解はしかねるけど……それがワビサビというものなんだよ」
「ワサビなんか知るか!」
「ワサビじゃなくてワビサビ。ワサビじゃ香辛料だよ」

香辛料ってチョッパーかよ、と不機嫌路線まっしぐらのジェシーは備え付けの小さな冷蔵庫から、缶ビールを取り出した。
先ほど、湯上がりにと目を付けていたらしいがワビサビを重んじるルークとヴァンによって阻止されていたのだ。
プシュっとタブが上がる音が聞こえる。ワインでも入っているなら僕もご相伴にあずかりたいけれど……まぁ、ないか。

「お前も飲むか?」
「いや、僕は……ビールよりワインかシャンパンのほうが」
「そうか」

口をつけ、美味しそうに上下するジェシーの喉を、僕はじっと見ていた。
湯上がりにアルコールが加わって上気する頬。うなじを流れる青髪。鎖骨と立派な胸筋が見え隠れする浴衣の襟。
というか、今気づいたのだけれど。
浴衣って……何かイイね。

「……どうした?」
「え!?なんでもないよ。強いて言えば」
「言えば?」
「いいことを、思いついただけ」

僕はそっとジェシーに近寄る。生乾きの髪からジェシー愛用のシャンプーとリンスの匂いがする。その髪に触れ、濡れた感触を軽く楽しむとそのまま指を頬へ。そして徐々に指を頬から下へ。顎に、首筋に、鎖骨のくぼみへ。

「レ、レミィっ!お前っ!」
「浴衣ってワビサビだね」
「わかってない!お前、何もわかってないだろう!?」
「いや、浴衣って素晴らしいよ」

ゆったりと被った身頃は紐一本で縛られているだけ。簡単にほどけるし、力を入れれば、はだける。もちろん、裾や隙間から手を差し入れるのもまた一興。

「簡単に脱がせられるけれど……みんなが帰ってくるといけないし。とりあえず」
「触るなっ……離れろ!」
「ほら、ビールがこぼれてしまうから、暴れないで」

腰の辺りで結ばれた紐を探り、浴衣の合わせを見つける。

「ばっ……」

見つけた合わせの隙間から足を撫でるように、指を滑らせる。
下着を簡単に通過して太股に進む。浴衣の間からのぞく、男にしては白くて滑らかな肌に、僕の心が躍る。

「レミィ、お前、変態か!」
「驚いた。ワビサビとは、変態なんだね」
「違う!多分それはワビサビとは関係ない!」

そうは言われても聞く耳を持つ気はない。
狭い部屋に押し込まれたストレスも、大浴場というストレスも、ミルクを飲まされたストレスも、全部一気にここで発散してしまおう。
そんな企みを込めた不敵な笑みを浮かべた僕に、ジェシーは不思議そうな顔をした。

あぁ、君は僕がふざけていると思っているんだ。だから、これ以上のことは……無いと思っているんだね。ふふふ。ごめんね……君の期待を裏切って。

僕は一呼吸置いた後、足に這わせた指とは逆の手を、今度は浴衣の胸元から侵入させる。巧みな指使いで、君の鍛えられた胸板を思う存分まさぐる。
あぁ、かつてはこの指であまたの女性たちを鳴かせてきたんだよ。そんな想いを込めてみるが、もちろん君には通じない。
でも、お互いの気持ちが通じ合えばいいなんて思わない。だって、もしも通じ合ってしまったら−−僕の脳内妄想にジェシーが耐えられるわけないからね。

「お前、いい加減……んっ……」
「後どれくらいで帰ってくるかな」
「知らねぇ…よ……はなせ……や…」
「空気を読んで、遅く帰ってきてくれるといいんだけどね」

まぁ、そんなメンバーでないことは知っている。無防備な君の首筋に音を立てて、キスを落としながら思った。
すると、静かな室内にかすかに響く話し声。本当に騒がしい仲間たちだ。他の客の迷惑も考えてないのかな。

「帰ってきちゃったみたい」
「なら…はなれ……ろ」
「うーん……これからが本番なのに」

名残惜しいように、君の髪をなでる。最後にもう一度キス。
僕が手を引くと行為の終了を知った君は一瞬で僕の元を離れて、向かった先は洗面所。律儀に持っていた缶ビールの中身をそこに一気に空けた。

「堂々としていればいいのに」
「うるさい。またあいつらがワビサビ言うだろうが」
「君もかなり丸くなったねぇ」

缶をゴミ箱の奥の方へ処分して、ジェシーは戻ってきた。
が、今度は明らかにこちらへ身構えている。座る場所も、どうにも僕から遠い。

「もう何もしないよ。みんな帰ってきたしね」
「警戒するに越したことはない」
「次にするとしたら……寝る時かな?」
「っ!!!!」

用心に用心をしたジェシーの布団が、僕から異様に遠かったのは言うまでもない。
まぁ、そんなことされても、乗り越えればいいだけなんだけどね。
そんなことに気づかないジェシーがとても可愛くて、とりあえず何もせずに眠ってあげようと思った。
だって、その気になれば機会なんていくらだって作れるんだから、ね?





end



レミジェシ。PSP版特典CDネタ。
まぁ、浴衣を着ていたかどうかは不明なんですがね。



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