LucianBee's

いつかの暑い夏の日に
1ページ/1ページ




いつかの暑い夏の日に





あー、あー、あー。暑さで、頭が茹でタコになりそうだ。いや、もちろん頭はタコじゃないから、無理なんだけどそれを否定するのも嫌になるくらい暑い。とにかく暑い、ひたすら暑い。
バイクで炎天下を走っていると、ヘルメットで目玉焼きが出来そうなくらいに熱くなるし、そもそも路面が熱い。陽炎が上がって、そこに幻でも見えそうだ。
それでも何とか目的地のスタジオにつき、メットを取るとようやく、多少なりとも涼しい風が顔をなでる。一息ついた。生き返った気分だ。

「暑いぃぃ……マジで死ぬ」
「……電車で来ればよかった」

熱く焼けるようなヘルメットをオレに投げて寄越したのは、ジェシー。どうせなら一緒に行かねぇかと強引にオレが誘って、後ろに乗せたのだ。オレと同様に暑かったのだろう。額は汗に濡れ、首筋からうなじに髪が汗で張り付いている。

「電車で来たって変わんねぇよ。乗るまで暑ぃじゃん」
「なら、タクシー」
「お。それ、げーのーじんっぽいな」
「"ぽい"じゃなくてガチだろうが」

と、言われても自覚は薄い。
元々インディーズで活動していたジェシーや、舞台なんかで公演する機会の多かったレミィとは違うんだ。芸能人なんて−−アイドルなんてテレビの中の生き物だと思ってる。

「にしてもマジで暑ぃよなぁ……」
「中、入った方が涼しいだろう」
「先行ってろよ、こいつ停めてくるから」
「……いい。一緒に行ってやる」

オレがバイクを引いて、その横にジェシーが並ぶ。こんな、何でもないことがうれしい。あぁ、駐車場までの距離がもっと長くなればいいのに、なんて。

(まつげ長い……顎のライン、シャープだし、うなじキレーだし、肌白いし)
(ガタイいいし…汗かく姿もさまになるよなー)

歩く時間を利用して、並ぶジェシーのきれいな横顔をチラ見。
の、つもりが見とれてしまう。

「……なに見てんだ」
「あ、ガン見してた?」
「してた」

見られることには慣れているはずの、お前が少しだけ頬を赤くしたのは……暑いからだけか?
そうじゃないことを、必死に祈ってみたりして。

「今、幸せ確認中だったわけ」
「はぁ…」
「だって幸せだろ」
「暑いのにか」
「暑いけど、だ」


お前等と一緒に、世界的にデビューしちまって、

あまつさえ人気者で、

そして、お前と恋人同士で、

オレ、幸せで死ねるのかもしれない。


「にしても暑いな……上、脱ぎたいくらいだ」
「脱げよ、ジェシー」
「阿呆か、止めろ」
「恋人の上裸見られるのに、止めるバカいるかよ」
「頭沸いてんじゃねぇのか?」

頭冷やせと、ジェシーがオレの頭をガシガシと振った。
オレも負けじとお前に反撃したかったが、両手はバイクに支配されている。手を離せば、バランスを崩してバタン。それはいけない。バイクも傷つくし、下手したら隣のお前まで巻き込むかもしれない。

「もっと気の利いたこと言えないのか、この頭は」
「あー、もう、髪がぐしゃぐしゃになんだろうが!」
「髪に気を使うような男か、お前は」
「使うっての!アイドル様だぞ」

らしくないなと、お前が笑った。


そのお前の笑みがあまりにもまぶしくて、
その触れた指があまりに優しくて、
その声があまりに愛しくて、


「よし、レッスン終わったら一緒に飯行くぞ!」
「はぁ?何勝手に」
「決まり!オレが決めた!今決めた!」
「ったく、我が儘リーダーが……」


もう、いっそ何かも放り出して、
このままお前と二人で、
どこかに行ってしまいたくなった。




end



あまりに暑くて脳みそ沸騰してるのはヴァンではなく、私自身だと気づきました。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ