LucianBee's
□薄氷渡り
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入り込むことの恐怖
入り込まれることの恐怖
薄氷渡り
寒い寒いと思っていたら、案の定、湖に氷が張っていた。
「あ」
するとヴァンが突然、阿呆みたいな声を上げて走りだそうとしたから、俺はその手をとっさに掴んだ。
「なんだよ」
「お前、今、氷に乗ろうとしてただろう」
ギクッとして、それからバツの悪そうな顔。どうやら図星。
「相変わらず、思考がガキだな」
「!スケートできそうだしよぉ」
「薄かったらどうするんだ」
「大丈夫だって」
俺の手を簡単に振りほどく。
いつもだったら俺と手をつなぎたいと騒ぐお前に、なんだか拒否されたようで気分が悪い。拒否される−−そうか、お前はいつもこんな気分を味わっているんだな。
困惑気味の俺を放って、お前は一目散に湖の畔へ。そして、厚みを確かめるなどせずにいきなり氷に飛び乗った。筋金入りの阿呆だった。
ところが氷はしっかりとヴァンの体重を受け止め、割れるどころかビクリともしなかった。忠告をした俺がバカみたいだ。
「ジェシー、大丈夫だったぜー」
「それはまぁ」
よかったな、と無邪気に手を振るヴァンに返した。
「ジェシーも乗ってみろよ。案外固いぜ」
「いい」
「なんだよ。怖ぇの?お前らしくねぇ」
らしくねぇ、か。俺はお前にいったいどういう風に見られているんだろう。俺だって、怖いものはあるし、怖いこともある。
ROCKだ何だと吹いておきながら、結局、怖いところへは踏み込めないし、踏み込まない。たとえば−−お前の心とか。
好きだ好きだと愛をささやくお前に、俺は底知れない恐怖を感じている。
お前の心が見えないから。
お前の本音が見えないから。
本気なのか冗談なのかもわからない。
それを確かめることですら−−怖い。
「大丈夫だって。男は度胸だろ」
「二人分の体重、支えられる保証ないだろうが」
どれほどの厚みがあるかわからない氷など信用できない。なにせそいつは湖の中へ隠れていて、目に見えないのだから。
「おい、ジェシー!」
「なんだ」
ヴァンが手を差し出した。
「−−なら、俺を信じて」
根拠のない言葉のはずなのに、
なぜかとても、
「−−−−」
心が楽になった。
ヴァンの手にすがるように、湖に降りた。氷は俺の体重をしっかりと受け止めて、割れる気配などない。
水面にしっかりと立つと、足下から凍気が上がってくるようで、寒い。
「大丈夫か?」
「!……大丈夫だ」
「やったな」
ヴァンがにこやかに笑った。
まったく、後先考えないこいつの思考にはついていけない。
でも、
「………少し度胸がついた気がする」
「マジで?よかったじゃん」
だから、今度お前に聞いてみよう。
本当に俺のこと好きか、って。
「上がるぞ」
「え!このまま湖横断しようぜ」
「バカか。落ちて凍えろ」
「ひでぇ!」
今度は俺がお前に手を差し出した。
お前は不思議そうな顔をしたが、すぐに俺の手を取った。
とりあえずは、手でもつないで帰ろうか。
この、伝わる手の温もりが嘘でないことを信じながら。
end
ヴァンジェシ。デレ気味ジェシー。
よい子は氷に乗るなんて危ないからやってはいけません。それにしても、どんなシチュエーションなんだろう……。