LucianBee's
□Practice with me.
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一緒なら、頑張れる
Practice with me.
ノートパソコンを片手にジェシーが部屋を訪ねて来たときはとても驚いた。
なぜ彼が僕の部屋に、というのではない。
実はメンバーにも内緒でこっそりと友人以上の関係を結んでる僕たちにとって、相手の部屋を訪ねるのは不思議ではない。
僕が驚いたのはエレキギターを愛用する割には、案外アナログな彼がパソコンを持っていたことだ。いや、現代人たるものパソコンくらい持っていて当たり前な気もするが、そんな常識が通じないのが芸能界であり、業界人なのだ。
「ルーク、教えろ」
「え、ええと、なにを?」
「とにかくいろいろ」
何がしたいのかもわからないが、とりあえず部屋に招いた。とにかく家電量販店で最新型を買ったのだろう、メタリックブルーに光るノートパソコンはなんとか初期設定が終わっていた。
「で、なにが知りたいんですか?」
「…………」
「あの、黙られるとわからないんですが」
「……お前がいつもやってるやつ」
あぁ、EEですか。と、言うと名前は知らねぇと返された。
普段は僕のプレイを横目で見ているだけだった彼が、いつの間にか興味を持っていてくれたのかと思うととてもうれしい。
しかも、一緒にやりたいということですよね。これは僕とあるるとジェシーの夢のパーティーが組め……いや、しかし。
超ド級初心者のジェシーをいきなりEEに招待していいのだろうか。少し、いや、かなり不安。タイピングくらい、練習してもらったほうがいいだろう。
「じゃあまずタイピング練習がわりに、僕とチャットしましょう」
「はぁ?」
有無を言わさず僕はジェシーのパソコンにウィンドウを立ち上げる。そして椅子に座ったジェシーを両腕の間に挟むようにして、後ろから立ったままタイプした。
『>Hello!』
「これは…どうすればいいんだ」
「簡単です。打ち返して下さい」
ジェシーがキーを見つめながら、不満そうに一字ずつ打っていく。たどたどしくて頼りないタイピングだった。
『>hwello』
「余計な文字が入ってますね」
「う、うるせぇ!」
隣通しのキーを一緒に押してしまったのだろう。僕に指摘されて、ジェシーは怒った。なにもこれくらいで怒らなくてもいいのに。先が思いやられる。
「目の前にいるのにパソコンで会話する意味がわからねぇ」
「今はそうですけど、本来は遠くの人とやりとりするんですよ」
文句なら画面に打ち込んでください、と言うとジェシーは黙ってしまった。
『>Are you happy?』
「fxxk、チャットなんてつまらねぇ。相手の顔も見れねぇし」
『>mnop』
Noも満足に打てなかったジェシーに思わず吹き出すと、肘で腹をうたれた。ミュージシャンは力があるというが、基礎体力のない僕には大概の攻撃がクリティカルヒットだ。
「声も聞けねぇし、触れねぇ」
「まぁ、そうですね」
「触れねぇから……キスもできねぇ」
タイプすることを諦めたようにジェシーが腕をだらんと下げる。後ろからでは表情がうかがえないが、耳が赤いことはわかる。
「……もしかして…期待してました?」
「なっ、な、なにを!」
「こういうこと」
僕はゆっくりと眼鏡を外して、おぼろげな視界の中で、振り返ったジェシーを見た。
耳だけじゃない、頬までほんのり赤い。
「ルー…ク……」
ワシントンの宵闇を思わせる君のダークブルーの両目。恥じらう頬は、薔薇の紅にも似て。桜色の唇がまるで催促するように、淫らに誘惑する。
えぇ、実は僕も、君が部屋にきたときから、ずっと機会をうかがっていたんです。
でもパソコンを習いたいと言ってる君に、迫るのはルール違反でしょう?
だから我慢してたのに、まったく、君という人は−−
僕は引き寄せられるように、
そっと、君と唇を重ねた。
−−−−−
あぁ、そうだ。
君が嫌いだと言っていたチャットにもいいことがありましたよ。
『>I love you』
僕がこうして大胆になれる。
愛をささやける。
それに、ほら、
『>me too』
君も少しだけ、素直になれる。
END
ルクジェシ風
勝手にジェシーをアナログな人にしてしまいましたが、あの世界にアナログな人なんかいるの?でも、彼が一本指でキーとか打ってたら可愛くないですか?