めだかボックス


□祭りの前の祭り
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大好きな人のことは全部知りたい
他人が知っている以上に知りたい
それは、普通の欲求だと思う




祭りの前の祭り




突然だが、箱庭学園には−−というかどこの学校にもだろうけれど普段はあまり使われていない特別教室というものがある。仲良しの友達と秘密のおしゃべりをしたり弁当を食べたり、不良がたむろしたり、時には恋人同士の逢い引きの現場になったりする。そんな便利な場所だ。
もちろん俺も他聞にもれず、そんな便利な施設を生徒会権限で使用して阿久根先輩を呼びだしているわけである。

「先輩は、めだかちゃんが好きなんですよね?」
「………何なんだい。いきなり、こんな場所で」



事の発端は前日に遡る。
前日は阿久根先輩は柔道部、喜界島は水泳部で久しぶりにめだかちゃんと二人きりの生徒会室だった。
といってもお互いに恋仲でもなし、特別に甘い雰囲気になることもなく。めだかちゃんは仕事に精を出し、俺は植木鉢に水を………



「………あのさ、その過去回想あとどれくらいかかる?」
「あと3000文字くらいです。もちろんお望みなら、結論まで早送りしますけど」
「そうしてくれる?」
「わかりました。阿久根先輩−−測らせてください」

巻き取り式のメジャーを両手で伸ばしながら俺は言った。
もちろん先輩を壁際に追いつめるのも忘れずに。

「…………待った。飛びすぎて、意味が分からない」
「お望み通り、三倍速で早送りしたんですけど」
「核心まで巻き戻してくれるかい」
「俺の過去の記憶はビデオテープ並なので、あんまり激しくすると切れちゃいます」
「早くブルーレイディスクにしたほうがいいよ」
「もちろん、先輩との思い出は地デジハイビジョンでブルーレイ録画ですけど」
「知っているかい?ブルーレイだって、割れたら映像は見られないんだよ」

先輩が俺の脳内ブルーレイを叩き割ろうと拳を握った。もちろん、旧破壊臣の名は伊達じゃない。本気で殴られたら俺のブルーレイどころか、走馬燈までおまけについてくる。

「……わかりました。簡潔にお話します」
「そうしてくれるかい」
「つまりはですね、めだかちゃん発案で文化祭で、メイド喫茶しようよというわけです」
「うん」
「当然、男子は女装ですよ」
「……く、草むしり」
「それは除草です」
「……本格的に走り込む前に」
「それは助走です……わざとですね」

まぁ、わざと話題を逸らそうとする先輩も可愛いですけど。
今回ばかりは見逃してあげるわけにはいかないんです!

「さぁ、オーダーのために観念して俺にサイズを測られてください。ちなみにメイド服発注は真黒さん御用達のメーカーなので安心安全です」
「どうやら真黒さん自身には安心安全の欠片もないみたいだね。それに人吉くん。サイズくらいなら保健室に行けば、四月の時のデータがあるよ。何も測らなくても……」
「いえ、それくらいならもう知ってます」
「………もうツッコまないからね」
「俺が知りたいのは今現在、この瞬間、"なう"でリアルな先輩のサイズです!!」

メジャーをのばして、まずは格闘家にしてはきれいで細い手首に巻く。
はい、計測完了。俺の脳内データベースにインプットした後、万が一俺が記憶喪失になってもいいように、メモ帳にも書き込む。

「はい、次は肩幅とか胸とか腰とかその辺りがいいんですけど」
「もういいよ……測りたければ測りなよ」
「じゃあ脱いでください」

阿久根先輩の拳が迷いなくきれいに俺の腹に入った。

「ぐはっ………し、死にますっ!可愛い後輩殺さないでください!」
「可愛い後輩は、先輩を脱がせようとはしない」
「これは測定の為です!」
「必要なら俺が自分で測るから。明日には持ってくるよ」
「いや、先輩の肌つやとかも計っておきたいので!」
「どうやら、一発じゃ足りなかったみたいだね」

先輩が再度、拳を握りしめる。
俺は走馬燈物を覚悟しながら、それでもメジャー片手に応戦した。
頑張れ、俺!
俺の俺による俺のための先輩データベースをより強固にするために!



結局、文化祭がどうなったのかは、また別の話。




end



善阿。
どうしてか、この二人を書くと文章が暴走する。



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