□仔犬のワルツ
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午後の温かい陽射しが差し始め、心地好い風が吹く。そんな中、磨羯宮の女官であるにとりは闘技場の裏にある空き地で日光浴をしていた。空き地と言っても花や植物が生い茂り、春になれば蝶が舞い、すぐ裏では聖闘士候補生達が死にもの狂いで厳しい特訓に耐えているのが嘘の様だ。



『あー気持ち良い〜。』



にとりは女官用の白い簡素なワンピースが汚れる事など気にせずに寝転がって大きく伸びをした。



『やっぱりのんびりする時間って大切だよねー。朝の仕事早目に終わらせちゃって良かった!』



今日は朝から宮の主シュラが闘技場で自己トレーニングや候補生達の観察をしていた為、にとりは昼に弁当を作って持ってくる様に言われていた。料理が得意で気がきくにとりは一緒に居るでろうロスリア兄弟やミロ達の分の昼食も用意してきていた。
しかし男四人分の弁当が入ったランチボックスはかなりの重さだ。宮を出た時は張り切っていたものの、階段を降りた頃には体力を消耗してしまい、少しの間休憩を取る事にしたのだった。



『痛たたた、腕が痺れちゃった。……あれ?』




目を閉じてまったりしていると、何処からかキャンキャンという仔犬の鳴き声がした。

声がする方を見上げると闘技場の塀の上、高さは5メートル程の所に大きな猫と震えている仔犬の姿があった。



『仔犬の方が追い詰められてるみたい…。』



にとりが駆け寄ると気配を察したのか猫はピョンと軽々しい身のこなしで飛び降りて行ってしまった。

一匹だけ取り残された仔犬。猫ならともかくこの高さを飛び降りるのは犬には不可能だ。茶色の毛並にピンと立った耳とクルンとした尻尾から見てにとりの母国の種、芝犬だろう。

にとりは元々動物好きだ。その中でも特に犬は好きな方だしギリシアに来て初めて見た日本犬。つかの間母国の事を思い出し懐かしい気持ちになる。



『やっぱり芝犬は可愛いなぁー。女官の身じゃなかったら飼えるのに……じゃなくてまず何とかしなきゃね!』



高い塀の上で仔犬はクゥーンと切なげな声を上げた。





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