双狐小咄

□そして僕は生かされる
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肉を引き裂く鈍い音と共に、全身に衝撃が走った。激痛と灼けつくような熱さが混ざり合い、感覚という感覚全てを埋め尽くす。
黒い衣服を更に黒く濡らす温かい液体が、じわじわと床にまで広がっていく。喉がごぽりと濡れた音を立て、紅い塊を吐き出した。
「フン……口程にも無いのぅ。小僧、ただの死にたがりか?」
ゆっくりと近付いてくるフツヌシを、先程よりも明るさを増した蒼眼で見つめる。
唇を鮮やかな紅色に染めて、ライドウは幸せそうに笑った。
少しずつ、全身が熱と力を失っていくのが解る。だが、身体を宙に縫い止めた剣が倒れる事を許さない。
「ならば、望み通りに──む?」
不意に、ライドウの喉に手をかけたフツヌシが、いぶかしげに顔を曇らせた。
ライドウはもう、笑ってはいなかった。
その瞳が急激に灰蒼に染まり、痛みと熱が引いていく。その代わりに、体内へ潜り込んだ冷たい異物感が、強烈な不快感を伴ってライドウを苛立たせた。
既に、紅い染みの侵食は止まっていた。
「貴様も、僕を殺せないのか」
「なんじゃと……!?」
落胆と憎悪の色を込めて放たれた言葉に、フツヌシは憤怒の形相で喉を掴む手に力を込める。
しかし、ライドウの表情は変わらない。
「失せろ。邪魔だ」
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