双狐小咄

□唯一にして無二の
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油断していた。
仲魔の声に振り向いた時には、既に避けきれない炎の塊が迫っていた。咄嗟に顔を両腕で覆って息を止めたが、身を焼く炎と爆風は防げない。
立ち上る火柱の向こうから、微かにゴウトの声が聞こえた気がした。

次に気が付いた時には、葛葉ライドウを襲名したあの広間にいた。
悪魔はどうなったのか。ゴウトは何処へ行ったのか。何故此処にいるのか。何故自分は生きているのか。
そんな疑問が一気に頭を駆け巡る中、ぼぅ、と周囲の空間に影が滲み出た。今まで対峙してきたどんな存在よりも強い力、気配。
それらに取り囲まれて、まず覚悟したのが死だった。
失敗は許されない。
その言葉が頭から離れない。
彼らが先代達なのだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
投げられる言葉はどれも鋭く、冷たい。
小鳥遊 聡。ライドウを襲名する以前に名乗っていた名を、その中の一人が口にした。
あの日以来、葛葉の者は皆──ゴウトだけを除いて──彼をライドウと呼んだのにも関わらず。
──ああ、ライドウとは呼ばれなかった。聡と呼ばれた。小鳥遊 聡と!
狼狽え、そして悟り、絶望する。
先代達は最後に一言、失せろと残して消え去った。

十四代目葛葉ライドウは、死んだ。
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