双狐小咄

□お前をその名で呼ぶ理由
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「時にはお前自身を殺してでも、葛葉ライドウとしての生き方をせねばならん事もあるだろう」
淡々と響くゴウトの声。しかし、その裏には何処か哀しみにも似た感情が見え隠れしていた。
「だからこそ、お前はお前を忘れてはならない。お前自身を亡くしてはいけない。『葛葉ライドウ』に縛られるな。お前はその名を背負った。だが、成り代わったわけではない」
次第に熱を帯びる口調に、ライドウの表情が歪んだ。それは無きにも等しい僅かな歪みでしかなかったが、ゴウトにはその動きがはっきりと解った。
そこで一息置いて、ニイと口を動かしライドウに向かって小さく微笑みかける。
「……だから、俺はお前を『聡』と呼ぶ。お前がお前でいられるように、な」
「ゴウト……」
ライドウは静かに腕を下ろし、手中の七星葛葉をそっと壁に立て掛けた。その口元は先程とは打って変わって、緩やかに弧を描いて笑みの形を作っている。
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