双狐小咄

□お前をその名で呼ぶ理由
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「……確かに、俺から見ればお前などまだまだヒヨッコだがな」
ゆらゆらと揺れていた尾を伏せて、ゴウトは努めて柔らかな声音で言った。
それでもライドウは動かない。
「何も、お前が力不足だという事だけが理由ではない。まぁ、それもあるが……俺はな、お前に己の本当の名を忘れてほしくないのだ」
ライドウの肩が微かに震えた。
素早く首を廻らせたその双眸が、鋭くゴウトを射抜く。言葉の真意を探るように、視線の先はぴたりと二つの緑眼を捉えていた。
真っ向から真摯な眼差しを受け止め、更にゴウトは言葉を紡ぐ。
「お前も解っているだろう。ライドウの名が持つ意味も、重さも。葛葉ライドウの襲名、それは先代達十三人分の生き様、責務、誇りをも受け継ぐ事だ」
ただ無言で、ライドウはゴウトの言葉を享受している。
その眼差しも動かない。
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