双狐小咄

□越境
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「眠いけれど……こうしていると、眠ってしまいそうだけど……まだ、寝たくないんです……」
声を出すのも気だるくて、紡ぐ言葉は途切れ途切れで。そこまで言って口を噤み、さらさらと髪を撫でる感触を味わう。
次の言葉を待つように、雷堂は何も言わなかった。
「なんだか、勿体無いでしょう?とても、今は、気持ちが良いんです……」
「何が勿体無いと言うのだ」
問う声は何処までも深く、優しい。
まるで子守唄のように、ライドウの意識を静かに闇へと誘っていく。
「雷堂が、勿体無い……」
素直に浮かんだままの言葉を口にすると、小さな笑い声が降ってきた。
「我が勿体無い、か。面白い事を言う。我は増えもしなければ減りもしない」
「ああ、違う……雷堂じゃなくて、そう……雷堂といる時間が、勿体無い」
「いつでも共にいるだろう」
「もう……察して下さい」
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