双狐小咄

□越境
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「すまない、起こしてしまったか」
立ち上がる雷堂の手には、橙に縁取られた透明なコップが握られていた。中には澄んだ琥珀色の液体が入っている。
果たして、その液体は橙に毒されてしまったのか、それとも本当にそんな色だったのか、ライドウには解らなかった。
橙が雷堂の陰に隠れ、視界が暗くなった。透き通った肌の白と、見下ろす蒼灰だけが明るい。
それが眩しくて、ライドウはゆっくりと瞳を閉じた。
額に触れた柔らかな温もりが、大きく包み込むように、優しくライドウの前髪を梳いては離れ、そして再び額を撫でる。
「雷堂……」
「どうした」
もう一度名を呼ぶ。微かな呼び掛けに、低い声が答えた。
「俺は、まだ……寝たくありません……」
今度は声は返ってこなかった。ただ、あやすような手の動きだけが続いている。
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