双狐小咄

□そして僕は生かされる
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いつからだっただろうか。
生き急ぎ、死に急ぐ。
そんな生き方をするようになったのは。
覚えていないのではない。
ただ、思い出したくないだけだ。
理由などどうでも良い。
ただ、考えたくないだけだ。

そんな思考も遥か過去の物。
ライドウは一瞬だけ、そんな過去の名残のように意識を戦場から切り離し、そして静かに抜刀した。


互いの刃がぶつかり合い、火花を散らす。
マグネタイトを媒体に構成されたこの世ならざる者の刃と、淡く蒼い光を纏った人を超越した者の刃は、どちらも一歩も譲らない。
「ヒヨッコが意気がりおって……このワシに刀で勝とうなど、百万年早いわ!」
吠えたフツヌシが両手を広げた瞬間、フツヌシ自身でもある幾本もの剣が、ライドウへと一斉に切っ先を向けた。
にぃ、とライドウの口角が吊り上がる。学帽の下から覗かせた微かに蒼を宿した闇色の瞳が、不敵に歪んでフツヌシを捉えた。
まるで、自らを狙う剣など眼中に無いかのように。
次の瞬間、ライドウ目がけて鈍い輝きが走った。人の視認能力を遥かに超えた速度で繰り出された突きが迫る。
しかしライドウは動かない。
その顔に浮かぶのは恐怖でも驚愕でも敵意でもなく、恍惚とした笑みだった。
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