双狐小咄

□お前をその名で呼ぶ理由
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「……ゴウト」
不意に名を呼ばれて、ゴウトはベッドの上で丸くなったまま、耳と瞳だけを声の主の方へと向けた。
「一つ、訊いても良いですか?」
ライドウは床に坐して七星葛葉の手入れをしながら、その刀身を見つめて言った。
何時に無く真剣なその口調と表情に、身体を起こして背筋を伸ばし、聞く体勢を作ってそちらへと向き直る。
「どうした」
「……俺の名前の事です」
ぴくり、とゴウトの左耳が動いた。
「貴方は、俺の事をいつも『聡』と呼びますね」
「それがどうかしたか?」
ゆらりと尾を揺らして問い掛ける。
いつの間にかライドウの手は止まり、微かに蒼を含んだ闇色の瞳が、じっとゴウトを見据えていた。
「俺は、十四代目葛葉ライドウと認められていないんですね?」
途中を全て省略した、ずばり結論から述べるその弁論が、彼が如何に思い詰めているかを表しているようにも思える。
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