双狐小咄

□越境
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ことり、と小さな音がした。
うっすらと瞳を開いたそこには、橙の灯りが作る濃淡と、ゆらゆらと揺れる影が這い回っている。
白い天井。それは今、幻想的な色を帯び、この世ならざる場所との境界のようにすら思えた。
ことり。再び、ライドウを眠りから呼び醒ました、あの音が響いた。
未だ弛緩したままの首を廻らせ、音がした方を視界に収める。そこには、空間を切り抜いたかのような黒があった。
何もかもが橙に侵蝕された部屋の中で、その黒だけが異質なもののように、ただただ黒く存在していた。
「雷、堂……」
擦れた声が空気を揺らす。
微かな絹擦れの音と共に、黒がライドウの方に向き直った。
冷たい蒼灰色の双眸が、ゆらめく橙に照らされている。その温かさを拒絶されたかのように、橙は鋭い白となって瞳に張り付いていた。
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