双狐小咄
□夢のあと
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無事に帰ってきて下さい。
その言葉に頷いて、貴方は真名に誓い。
そして、この部屋を後にした。
貴方は、帰らなかった。
「────っ!!」
何やら声にならない声を上げた気がする。
じっとりと全身が湿っていた。つっ、とこめかみから雫が伝い落ち、胸元の布を軽く揺らした。
窓からは、随分と高くなった陽の光が差し込んでいる。
おぞましい夢。その内容を詳しくは覚えていない。
しかし、その夢がライドウにとって如何に恐ろしい夢だったかを、この身体の状態が如実に物語っていた。
乱れた呼吸を必死に抑えようとすればする程息苦しさは増して、心拍数は跳ね上がっていく。
頭が妙に軽い。ライドウは怪訝に思いつつ視線を巡らせた。
程無くして目に付いたのは、サイドテーブルの上に置かれた、もはやライドウのトレードマークと化した学帽。
これを脱いだからあんな悪夢を見たのかもしれない。そんなことを思うと、自然と苦笑いが溢れる。
かたん。
不意に聞こえた窓の鳴る音に、ライドウは弾かれたように振り向いた。