∞手塚長編V∞
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彼女の薦めてくれた本は面白い。
内容はもちろん、人物像もハッキリしていてイメージしやすかった。
ふと、彼女自身のことを思い浮かべる。
どんな容姿で
どんな声で
どんな時を過ごしているのか。
周りの人間関係や
家族のこと。
とにかく、俺は名字さんのことを知りたくて堪らなかった。
だがしかし、いきなりがっついてあれこれ聞くのも性に合わないので控えめに接していこうと決めた。
彼女は、俺のことをどんな風に思っているのだろうか…
もし仮に今後会えたとして、想像していた姿と違う男だったら、がっかりするだろうか。
彼女にどう思われているのか、
たくさん彼女と話したい。
一日数行の言葉のメールのもどかしさを思い知った。
「ボランティア活動?」
翌日、昇降口で会った大石と会話をしながら教室へ向かった。
「そうなんだよ、英二がテストの点数酷かったらしくてね、今度東京都主催のボランティア活動に参加したら再試免除してもらえるようになったんだって」
あいつ…受験生なのにそんなことでいいのか…
そんなことを考えつつ、テニス部の3年で皆で行ってみないかと言う話になっているらしいことを聞いた。
「確かに、いい経験になるだろう。俺も参加すると伝えておいてくれ」
「良かった!詳細はまた英二が聞いてくるはずだから!」
じゃあ、と言葉を交わしそれぞれの教室へ入った。
メールのいい話題になるかもしれない。
俺の思考は常に彼女とのメールに向かっていた。
『へぇ〜、ボランティア活動か…いいね!』
早速その夜、彼女に話題を提供した。
『部の仲間が成績が悪いらしく、その補填として行けることになったんだ』
『どんなことするの?』
『まだ詳細は聞いていないが、楽しみではある』
きっと俺は彼女に良く思われたくて、こんなことを書いている。
まぁ確かに楽しみではあるし、いい経験になるといったのも本音だが、きっと彼女の存在を知る前の俺だったら、その時間を受験勉強に当てているだろう。
彼女のおかげで、俺の世界が広がっている気がした。
『きっとどんな内容であれ、自分の糧になるよね!』
彼女は、きっととても良い子なのだろう。
メールの文面からも素直さと明るさが伝わってくる。
認める。俺はもう既に彼女に夢中だ。