∞手塚長編U∞

□7話
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桃「部長、…部長っ!」


まだ日も明けない薄暗い中、日の見張りをしていた桃城と河村が俺を起こした。

手「…どうした?」
俺は眼鏡に手をかけながら、気だるい声で答えた。

河「手塚、船の音がする」
桃「間違いないっすよ!海岸のほうから、エンジン音がするっす!」


耳を澄ませた。たしかに、微かではあるが船独特の『ボーー』という音がした。


手「全員を起こせっ!俺は海岸を見てくる!」
桃「うっす!」
河「手塚、名無しはどうするの?」

手「…黙っておけ、彼女が起きないうちに俺らが脱出で切れば本望だろう」

俺は海岸へ走った。俺の姿に気付いて船が通りかかってくれたら助かる!


手「ハァハァハァ……」

確かに船だった。それも、まっすぐこっちを向いている。
狼煙に気付いて助けに来たのだろうか。

俺はジャージと木で作った旗を振った。すると船の明かりがこちらへ向いた。

船のデッキの先頭に誰かが居るのが見えた。

「手塚かー?」

マイクからは聞き覚えのある声だった。あの声は…

手「跡部…跡部なのかーっ!?」
まだ距離は遠い、もちろん俺の声は聞こえるはずがなかった。

菊「手塚、助けが来たのにゃ!?」
大「船だっ!」

手「……跡部の声だった」
不「氷帝の?」
手「あぁ、きっと、このジャージで気付いたんだろう」

全員がこの海岸へ集まった。みな帰れると喜び抱き合った。

河「手塚…ごめん、名無しも起こしたよ」
手「なに…?」
不「みんな気付いてるよ、お別れぐらい言ってきなよ」
乾「あぁ、俺たちが時間を稼ぐ」
大「本当に最後なんだ、意地を張るなよ」
菊「そうだにゃ〜手塚らしくないにゃ」

みんなが文字通り、俺の背中を押した。
たしかに、こんなにも世話になったんだ、何も言わずに去るのは恩を仇で返すようなものだ。

手「お前ら……すまないっ」


今来た道を走った。全速力で走った。
会ってどうするというのだ。
感謝はしている。礼は伝えねば成るまい。
だが、最後だと思うと、込み上げてくるものがある。
俺たちは別れなければならないのか。
別れる運命なら、出会うべきではなかった。
しかし、彼女に出会えてよかった。

湖に戻ると、陸に体を横たわらせている名無しがいた。

手「名無しっ!何してるんだっ!早く水の中に…」
「手塚…戻ってきてくれたのか…」

そんなに長い時間な筈がない。しかし彼女はだいぶ弱っていた。
俺は彼女を抱きかかえた。水中から上がっていたからだろうか、体が温かい。

「手塚、聞いてくれ…私は…手塚たちに出会えてよかった…」

彼女は今にも消えそうな声で言の葉を綴った。

「私は、人間は皆同じだと思っていた。みな凶暴で、私を殺す生き物なんだと…だがお前たちは違っていた…母様も、お前たちみたいな人間に出会っていたんだな…だから恋をした。今ならその気持ちが分かる。私も手塚と恋をしたかった…」

彼女の声が、段々細くなっていくのが目に見えるようで切なかった。

「だが、手塚はただの人間だ。私とは違う。だから最後に言わせてくれ、


出会ってくれて、ありがとう…」

手「名無しっ!!」

言いたいことを、全部言われてしまった。
ならばこの思いを俺も伝えたい。

手「名無し…愛している…死なないでくれ…お前と離れたくなどない…名無し」

湖のほとりで彼女の体に水をかけた。
それでも意識が戻らない…なぜだ…
頼む、死なないでくれ…
俺には名無しが必要なんだ…っ
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