∞手塚長編U∞
□6話
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翌朝、俺たちは狼煙に使うために大量の小枝や枯葉を集めた。
海岸にも大きく『HELP』の文字を木で作り、旗代わりに俺のジャージを使った。
これで空からも船からも、見つけやすくなったのだ。
「魚を取ってくる」
彼女がそう言い、潜ろうとした。
手「ここの魚は、そんなに数多く居るのか?」
ずっと疑問だった。鳥や鹿たちをこの森で見かけたが、決してそんなに多くは居なかった。
「…お前たちにあと2日も差し出せば、絶滅するだろう」
どうして彼女は、勝手に迷い込んできた俺たちにそこまでしてくれるのか。
最初は敵だと判断し、あんなにも警戒していたのに、どうしてこの森の生き物よりも俺たちを優先してくれるのか…
彼女は言っていた。自分は半分人間であると…
俺たちに出会うことによって、彼女の中の人間である部分が、どんどん大きくなってきてしまっているのではないか?
このままいって、もし仮に彼女が龍でなくなってしまったら、この森の守り主は居なくなる。
そうしたら、この森はどうなってしまうのか…
俺たちは、一刻も早く、この森を出なくてはならない。
俺一人の感情など、たったこの一時の感情など、捨ててしまわなくてはならないことを、今やっと理解したのだ。
手「……名無し」
魚はもう要らない。木の実だけでも種類は豊富にあった。木の実と水さえあれば俺たちは何とか生きていけるはずだ。
「なんだ?」
しかし、俺の独断でこんなこと、決めてしまっていいのだろうか。
今この場には、俺と彼女しか居ないが、相談しに行く時間が惜しい。
こういうときに、俺の無力さを感じる。
不「いいよ手塚。僕も要らない」
手「!?」
林の方へ振り向くと、皆悟ったような表情で立っていた。
手「…不二…」
河「俺も、もう十分力をもらったよ」
菊「俺も俺もにゃ〜」
大「あぁ」
乾「水さえあれば、人間は生きられる」
海「っす」
桃「帰ったらめい一杯食えばいいっすから!」
越「そうっすよね」
みんな気持ちは一緒だった。
名無しを、この森を大切に思う、この気持ち。
手「……そう言う事だ、名無し。魚はもういい。もう少しの間、木の実と水を分けてくれるか?」
「構わないが…それでいいのか?」
木の実だって、命には変わりない。
しかし、植物は木さえあればまた成る。
それに、魚を俺たちに差し出した時の悲しそうな彼女の表情を、もう見たくなかった。
手「俺たちなら大丈夫だ、ありがとう」
力を使うことで大層疲れて、その上魂をなくした魚を見る名無しの眼は、俺に何かを訴えているようだったから。