∞手塚長編∞
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夕飯時の、しかもデパート内のスーパーと言うことで、レジは込み合っていた。
早く会計を済ませて家に帰ってしまいたかった。
メールでも打っておけば、一人で帰っても手塚君も何も言わないだろうと、むしろ、今は会いたくないと、思った。
「名無しさん、」
「!」
あと一人でレジが私の番というときに、手塚君は来た。さっきの『敦子』という人は一緒ではなかった。
「すまなかった、あいつは…」
「いいの、別に、すべてを言わなきゃいけないなんて、そんなことないでしょ…?」
「……しかし、気分を害しただろう」
「気にしないで、もう、いいの?」
いいの、と言った割には、やっぱり気になる。
さっきの人は誰なんだろう。
遊ぶって、何のことだろう。
私の知らない、手塚君を知ってる。
「あぁ、もう二度と話さない相手だ。」
そう言った表情は、若干の怒りを表していた。
「2,957円です。」
色々買い込んだせいで、結構な金額になってしまった。そもそも、材料が二人分なのだから、いつもの倍かかっててもおかしくはない。
買っておいてなんだけど、やっぱり、今日は手塚君といるのきまづいな…
断ろうかどうしようか悩んでいると、気付けば二人は沈黙の中、荷物を詰め込んでいた。
「俺といるのは、嫌か?」
沈黙を先に破ったのは、彼だった。
「嫌じゃ…ないよ、ただ…」
気にしないでと言った手前、やっぱり聞きたいなんて、いえない
そもそも、本当は聞きたくないのだ。
でも、聞かずにいるとずっとこれからもこのままなんだ。
「…聞きたくなければ、耳を塞いでくれればいい、俺は隠すつもりはない。もっとも、黙っていられれば話したくはなかったが、こんな状況になっては、かえって黙っているほうが失礼だ」
だから、話させてくれ。
その願いに、私は小さく頷くだけだった。