ピョンピョンと跳ねている癖っ気の強い髪を撫でる。小さい頃は子供扱いするな!と怒っていたエースは今は大人しく撫でられている。 エースの髪は、あの頃と変わらず柔らかくて、気持ちが良い。 自分に甘えるように、引っ付いてくるようなったのはエースが海に出て、お義父さんの船に乗るようになり、その背に白ひげの“誇り”を刻んで間もない頃、久し振りにお義父さんや白ひげのクルー達に会いに来た時だ。 お義父さんと話していたら、エースが任務から帰って来て……、急に抱き着いて来たんだ。 それからは、エースはよく引っ付いてくるようになった。 子供の頃は、全然ルフィと一緒の時じゃなきゃ抱き着いて来てくれなかったのに、よくくっついてくるようになったエースに思わず頬の筋肉がだらしなく緩んだのは記憶に新しい。 思い起こしてぼーっとしていると、チュッと音を立てて唇を掠めるように奪われた。 目の前には不満げな顔をしたエースがいて、エースの頭を撫でていた自分の手は止まっていた。 「…なに考えてるんだよ」 どうやらぼんやりとして構わなかった事がエースの機嫌を損ねてしまったようだ。 そんなエースに思わず、ぷっと噴き出しそうになるのを堪え、 『昔のエースは甘えてくれなかったから寂しかったなぁって、考えてたんだよ』 素直に考えていた事を伝えれば、エースは少し恥ずかしそうに私に抱き着く腕の力を強くした。 私は今、エースの足の間に腰を降ろし、エースに後ろから抱え込まれるように抱き締められている。首筋に顔を埋めているエースの頭を撫でていたのだが、腕の力を強くしたエースは今は私の頭に顎の乗せている状態なので手は離れてしまった。 こんな風に、エースとキスをしたりするようになったのはエースが処刑されそうになってからだ。 エースが処刑台の上に居るのを見た時、初めて目の前が真っ暗になるという感覚を知った。 エースが解放された時、嬉しくて涙が出そうになった。 そして、赤犬がエースを貫こうとした瞬間─── 私は気がつけば赤犬の拳を握り締めていた。覇気を一応纏っていても少し手が焼けて、熱くて痛くて……でも、それ以上にエースが無事だと思い安堵した。 お義父さんをルフィと一緒になって無理矢理引っ張って、シャンクスが来てくれて戦争が終わった後、初めてエースの前で泣いた。 声はあげなかった。 ただ、涙だけが静かに流れ続けて止まらなかった。 その時、私はエースに対するこの想いが、家族への愛情や親愛、友愛なんかじゃ無くて、もっと重く深い想いなんだと気が付いた。 恋も、愛も知らないし、恋愛感情を持った事なんて無かったけれど、エースが好きなんだと、私は何故か確信していた。 その日の夜はみんな怪我だらけで、至る所に包帯巻いて、宴をした。 本当は寝て無くちゃいけない人達もみんな集まって、囚人達も飲めや歌えやの大騒ぎでみんな笑ってて……、エースが泣き笑いで“愛してくれてありがとう”だなんて言うからみんなも泣いて、また笑って─── エースがいつの間にか隣りに来てて、好きだなんて真剣な顔で言うもんだから思わず笑っちゃって、エースは真っ赤になって怒ったけど、私もだって言えば、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔で驚いて、その後に照れ臭そうに鼻の下を擦りながらへにゃりと笑った。 その時のエースの耳が真っ赤になってて、私は湧き上がる愛しさに、エースを子供の頃のように抱き締めたのだ。 それから、私達は所謂恋人同士。私はちょっと特殊な人生を送ってきたからエースよりも遥かに年上だけど、身体年齢はエースに近い。 それでも、好きだと言ってくれたエースが今はどうしようも無く愛しい。 また、首筋に顔を埋めているエースにクスクスと笑いながらも、その小さかったのに、今じゃ大きくなったエースの頭を撫でる。 『…エース、ねぇエース。愛してる………』 「……おれもだ…」 想いを伝えたくて、愛を囁けば、エースも首筋にチュッとキスを落として囁き返してくれる。それでもこの愛しさを、言葉で伝えきれない私は、どうやったら伝わるのかずっと考えて、こうしてぬくもりを分かち合うことしか出来なかった。 小さな身体を見守る事が出来た過去に。 戦争を終えて、こうして抱き締め合ってぬくもりを感じられることに。 これからも泣いて、怒り、たまに喧嘩して、仲直りして笑い合える今に。 共に、紡いでいく未来に。 感謝と、胸一杯のこの想いを込めて。 エースの頬にそっと手を添えて、私の首筋に埋めていた顔をあげさせる。 この溢れ出す想いが、唇の熱に融けて伝われば良いと思いながら、そのまま後ろへと首を傾けて、エースの頭をグッと近付ければ………そっと唇が重なった。 触れ合うだけの長いキスをして、閉じていた瞼を押し上げれば、幸せそうに微笑んでいるエースがいて、私も微笑った。 右瞼の上に落ちて来たキスに片目を閉じれば、次は唇に優しいキスが降って来た。 その柔らかなぬくもりに確かな、想いが伝わる幸せを感じて、再び目を閉じた。 そしてまたキスをする ((…すき、好き、大好き、………愛してる……)) 触れ合った唇のぬくもりから、確かに伝わる想い。 それは空みたいに広大で、海のように深い想い。 アンソロジー様提出。 ・ |