ホラー
□秋桜怪談校舎‐旧校舎編‐
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「うん、それ八〇年代の資料まとめてる段ボールの中あったから、二十何年も前の代物だろうと思う。最初はすごい埃まみれだったんだから」
出来る限りきれいに拭いてきたよ、と弥生は続けた。
「で、七不思議ってどんなことが書いてあったわけ?」
いい加減本題に入ってくれと言うように芽伊里は言った。
「まだ読んでないから知らない。でもほら、いかにも……」
「本物の怪談のニオイはもういいから」
予想はしていた弥生は返答に浩太はそう言いながら中身を捲った。
普通は読んで持ってくるのが常識なのだろうが弥生はこういうことをみんなで共有したがるのでそうすることはあまりない。
「とりあえず見てみようよ」
四人で囲む形になり、浩太は順々にノートのページを捲っていった。
中には、一つずつの不思議の内容と細かな補足となる噂、またこのノートをまとめたであろう人物の不思議に対する考えなどが書かれていた。
しかし、ノートに書かれていた話は六つだった。
「七不思議じゃないじゃない」
「七つ目を知ったら死ぬとか呪われるとかよく言うよね。それでじゃない? 怖くて調べなかったの」
「実は全部でっち上げとかじゃねえ?」
「もう一ページ残ってるよ」
いろいろ憶測している三人に浩太が言った。
めくると、そこにはただ一行、真ん中にぽつんと一言あった。
『七つ目の不思議は、六つの不思議を知れば自ずと現れる』
「……どういうこと?」
芽伊里が言った。
「えっと……。六つの不思議を調べたら七つ目も分かるってことじゃないかな?
ほら、さっきも言ったけど最後の不思議を知ったら何かよくないことが自分の身に起こるって言われてるの。だから最後は『欠番』、わざと欠けさせて最後の不思議は隠してるってパターンがあるんだ。
この高校は特に怪談の数が多いし、最後に相応しい物がなかったとか、選びきれなかったとかで自分で探して下さいってことかも」
そんな弥生の説明に真人はぽつりと呟いた。
「でも、この言葉通りだと、今知っても何も起こってないからこの知るって……調べるってことか? そうすると六つの不思議全部調べたら七つ目が何か分かるってことだよな」
「真人」
「馬鹿……。お前なんでこういうときは無駄に頭回るんだよ!」
芽伊里に咎めるように自分の名前を呼ばれたことと浩太の非難するようなその言葉に、真人は自分の失言に気付いた。
しかし、時すでに遅し。
その呟きは、しっかりと弥生の耳に届いていた。
「そうだね、やっぱ欠けてるの気になるし、全部調べて七つ目まできちんと知る必要あるよね」
七つ目を知る必要があるなどとは、この場で恐らく弥生以外誰も思ってはいないだろう。
しかし、『調べる』とやる気になっている弥生を止める術は、誰も知らない。
「幸い、ほら、ここに地図付いてるし」
弥生はノートの裏表紙の内側に畳まれ貼り付けられている紙を広げた。
地図には『秋桜高等学校旧校舎内図』とあった。どうやら手書きの地図のようで、所々に赤丸があり一から六までの数字がその中に書き込まれている。それは、怪談の場所と順番の数字であると予想が付く。
「じゃ、放課後『アラモード』に集合ね。深月さんにも伝えてくるから」
笑顔で教室を出て行く弥生を三人は見送って深いため息をつく。
真人は心の中で、そっと一つ年上の姉に「姉ちゃん、ごめん」と謝罪した。
こうして、彼らの平穏な日々は終わりを告げる。