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□サンタと私
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クリスマスにプレゼントをもらったことなんてなかった。
サンタというおじいさんの存在も、つい最近知ったばかりだ。
12月25日の朝は特に変わりのない、いつもと同じ朝だった。
スリザリンの寮は地下に位置しているため外の様子は分からないけど、どうせ雪が積もってるんだろうなあ。
欠伸を噛み殺しながら談話室に行けば、みんなが楽しそうにプレゼントを開けていた。
その様子を寝ぼけたまま眺めといると、突然後ろからドンと背中を押されてつんのめった。
「わっ、と、何すん、の」
「邪魔です」
押した犯人の顔を見て声を聞いて、一気に覚醒した。
だってそれは私の大好きな、私の彼氏であるレギュラスだったから。
「お、おはよ!」
「おはようございます」
事務的な挨拶すら嬉しく感じてしまうのは私の頭がおかしいからじゃなくて、レギュラスが素敵すぎるせい。
彼は談話室にある大きなツリーの傍に置いてあった自分宛のプレゼントをつまらなさそうに手に取り、包装紙を綺麗に開け始めた。
私が隣に並んでも何も言わない、どうやら今日は機嫌がいいらしい。
時には無表情のまま杖を向けられることもある。
「プレゼント?」
「見れば分かりませんか」
「サンタからだね」
「母からです」
「おお、レギュラスのお母さんはサンタなのか!」
手元のプレゼントから私に目を移して心底怪訝そうな顔をしたけど、すぐに納得いったようだった。
「そうでした、アリスは少し常識がないんでしたね」
「失礼な!しょうがないじゃん、周りに教えてくれる人がいなかったんだからさ」
私はいわゆる孤児というやつで。
ホグワーツに入学するまではマグルの世界でどうにかこうにか一人で生き抜いてた。
だから最低限の生きる術しか知らず、こういうイベント事にはすごく疎い。
少しだけ眉間に皺を寄せたレギュラスは、私の頭を優しい手つきで撫でた。
「なんか…今日優しい?」
「気のせいですよ」
そう言ってポケットから小さな箱を取り出した。
私はそれを目で追ったんだけど、どうしてその箱が私に差し出されているんだろう。
「クリスマスプレゼントです」
「えっ!…レギュラスも実はサンタだったの?」
「もうそういうことでいいですよ」
私は嬉しさに震える手で箱を受け取り、ゆっくり蓋を開けた。
中にはとってもきらきらした指輪がひとつ。
「とりあえず、のものですからそんなに高価じゃないですけど」
レギュラスは少しだけ身を屈めて私の頬にキスをした。
いつもと変わらない朝のはずだったのに、いつの間にかすっかり特別な朝になってしまった。
にへらと笑った私の頬を今度はつねったレギュラスも小さく笑っていた。
もらった指輪を左手の薬指に填める意味を私が知るのは、まだ先のこと。