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□プロポーズ
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「卒業したら結婚しようよ」


私がそう言うと、やっぱりリーマスは驚いた顔をしていた。
ふつう女の子はプロポーズしないって、女の子は待ってるものだって。
乙女なみんなはそう言うけど、あいにく私は待ってるだけのお姫様じゃないの。
リーマスが言ってくれないなら私が言えばいい。卒業してさようならなんて、悲しすぎるでしょ。


「……ごめん、アリス。それは無理だ」


そう言わるかもなって少しは考えてたけど、実際リーマスに言われると結構つらいものがあった。
でも私なんかよりリーマスの方がずっと辛そうな顔をしていた。


「それは……リーマスが人狼だから?」


リーマスの瞳が陰って、自嘲するように小さく笑った。


「人狼と結婚しても、君は幸せになれない」


リーマスは優しい、優しすぎる。
自分の優しさで、結局は自分一人を傷付けて。
目には見えない心の傷を刻んで、自己嫌悪を繰り返して。
そうやってみんなに優しくしてるんだ。
リーマスの優しさは、いつだって自己犠牲の上に成り立つ。


「僕は君に幸せになってほしいんだ」

「じゃあ結婚しよう」


尚も言い張る私にリーマスは眉間に皺を寄せて苦笑した。


「アリス、わかって。僕は誰かを不幸にできても、幸せにすることはできないんだよ」

「リーマスがわかってよ」

「何をだい?」

「私の幸せを勝手に決めつけないで!」


少し怒っている私に、リーマスは困ってるみたいだ。


「私の幸せはリーマスと一緒にいることなんだよ?なのに他の人と結婚しろみたいなこと言うし、酷いなあ」

「それは…」

「私、リーマスと結婚できないなら一生独身でいるから」

「でもね、アリス。僕と結婚すれば君はいつか必ず後悔するよ」

「……そんなに私と結婚したくないの?」


私ばっかりが結婚したあと思ってたのなら、恥ずかしい。
この気持ちは所詮、独りよがりってことなのかも。


「違う、違うんだよ。僕は、」

「いいよリーマス。なんかごめんね、リーマスの気持ちも聞かないで」


付き合ってるから将来は結婚できるとか勘違いして。
今までそんな話をしたことなんて一度もなかったのに。
私バカだなあ…。
リーマスとずっと一緒にいられるって信じてた。
そんな確証、どこにもないのに。


「アリス!」


こんなに必死なリーマスの姿、私は初めて見た気がする。


「僕だって本当は君と結婚したい。他の誰かじゃなくて、僕が君を幸せにしたい。でも僕は……僕、は……っ、」


リーマスの頬を涙が伝って、きっと悩んでくれたんだろうな、とか。
また一人で思い詰めたんだろうな、とか。
私はそっと、額をリーマスとくっ付け合った。


「ねえリーマス、結婚しよう?二人で幸せになろうよ」

「……で、も」

「"でも"は無し。大丈夫、私はリーマスが大好きだから。リーマスが私を好きでいてくれるなら、きっと幸せだよ」


私が笑うと、リーマスもつられて笑った。


「僕はずっと君を愛してる」


リーマスは流れた涙を拭ってから、私と向き合っう。


「さっきのやり取り、なかったことにしてくれないかい?」

「どうして?」


リーマスは私の左手を取り、その薬指に口づけをした。


「僕と結婚してください」







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