捧げ物

□白雪姫
2ページ/3ページ



「…突然散歩に行こうなど何事だ?」

「いやぁ、気分転換にさ!姫さん近頃城に篭りっきりだろ?」


兵士は早速白雪姫を誘って森に来ました。
そこには小川が流れていて、一面に花が咲いています。

そんな美しい景色を眺めながら、兵士が尋ねました。


「姫さんさぁ、好きな人はいないのかい?」

「!!す、好きな人だと!いるわけなかろう!」


白雪姫は明らかに動揺しています。
それを見た兵士は得意げに笑いました。


「もしかして隣の国の王子?」

「なっ…!我があんな奴の事を好きなどという事は断じてない!」

白雪姫は否定する割には顔が真っ赤です。
兵士はそんな姫の様子を見て、数年前のことを思い出しました。







―五年前。まだ白雪姫の実の母親が生きていて、今の意地悪な王妃がいなかった頃の事。

白雪姫いるの国は隣の国と同盟を結ぶ事になり、隣の国の王と王子が挨拶に来ました。
白雪姫も王達と一緒に食事をするため、広間に向かって廊下を歩いていました。
すると前から見慣れない少年が歩いて来て、白雪姫に尋ねました。


「なぁ、迷っちまったんだが広間ってどっちだ?」


その風貌から、それが隣の国の王子だという事はすぐにわかりました。
しかしなんと失礼な口のきき方でしょう。
白雪姫は不愉快で仕方ありません。


「…我もこれから行くところぞ。ついてくるがよい」


相手が失礼な口のきき方だったので、こちらも構うものかと同じように接しました。


「俺は元親って言うんだ。アンタ、白雪姫だろ?」

「そうだ」


廊下を進みながら、王子はやっと名乗りました。
白雪姫は“アンタ”と言われたことが不快でした。
この王子は礼儀を知らないのでしょうか。


「本当の名前は?」

「…え?」

「白雪姫って本名じゃねぇんだろ?」


白雪姫は一瞬、何を言われたのかわかりませんでした。
何故そんなことを聞く必要があるのかわからなかったのです。
だからと言って黙っているわけにもいかず、白雪姫は小さな声でつぶやきました。


「……元就と言う」

「いい名前じゃねぇか。元就姫って呼ばせてもらうぜ」

「…何故だ。皆のように白雪と呼べばよい」


白雪姫は不思議で仕方ありません。
皆白雪姫と呼んでいるのだから、そう呼べば良いのです。
わざわざ本名で呼ぶ必要はありません。


「折角元就って名前があるのにそう呼ばないのはもったいないからな」


王子は太陽のように笑いました。
白雪姫は嬉しさと恥ずかしさに顔を赤らめました。
そんな事を言われるのは初めてだったので、戸惑いもありました。

その後、いくつか言葉を交わすと、王子は口は悪いけど面白くていい人だということがわかりました。

第一印象は最悪でしたが、その性格を知ってからは王子が好きになりました。









「…ってことがあったよな」

「くだらんことを思い出させるでない」


白雪姫は俯いて、足元の花をひとつ摘みました。
そしてその黄色い花を見つめたあとでふと空を見ると、白雪姫の大好きな太陽は山の向こうに沈みかけていました。


「そろそろ帰らぬか」


白雪姫がそう言った途端、兵士の顔が強張りました。
自分の使命を思い出したのです。


「…姫さん、アンタは城に帰っちゃいけない」

「何を言っておる。我の家はあそこしか、」

「王妃が、姫さんの命を狙ってるんだ。……俺が、殺せって命じられて…」


兵士は少し気まずそうに言いました。
その顔は悲痛に満ちています。


「フッ…そういう事であったか。そなたが我を散歩に誘うなど、何かあるのではないかと思っていた」

「悪い、逃げてくれ」

「……」


白雪姫は何も言わずに駆け出しました。
行く当てもなく森に入り、そのまま進むうちに深い深いところまで来てしまいました。
夜は刻一刻と迫ってきています。
鳥のさえずりも止み始め、静けさと暗さが不気味で仕方ありません。
白雪姫は泣きたくなるのを我慢しながら森を進みました。

せめて眠る場所はないかと思っていると、少し開けた場所に小屋がぽつんと立っているの見つけました。
白雪姫は恐る恐る中を覗きましたが、誰もいないようです。

疲れきった白雪姫はそうっと小屋に入り、ベッドを見つけると倒れ込むようにして寝てしまいました。


その日の夜、仕事を終えたこの小屋の住人である七人の小人が帰ってきて白雪姫の存在に驚きましたが、姫を起こすのは可哀相だと思い、朝まで寝かせてくれました。




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ