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□スズラン
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沖までよく見える高台で、地平線に沈む太陽を眺める男がいた。
男は何時間もそこで船ひとつ浮かんでいない海を見ている。
彼がそうするのは遠い昔に交わした約束を守る為であった。
『我らはもう会えぬ』
『どうして!?そんなの嫌だっ』
『戦が始まるのだ。仕方あるまい』
『敵になるってこと?』
『そういうことだ。だから、一生会えぬかもしれん』
『そんな…』
『……こういうのはどうだ。もし10年の間会えなければ、10年目のこの日にまたここに来て会う』
『10年も!?』
『それくらいが丁度良いのだ』
『わかった。絶対また会おうね』
『約束する』
「来るわけねぇか…」
太陽はついに海の向こうに沈んでしまった。
彼は約束を忘れてしまったのだろうか。
それとも自分が日にちを間違えたのかもしれない。
男は様々な考えを頭に浮かべながら、これ以上待っても無駄だと思い立ち上がると、ざり、と後ろで砂が擦れる音が聞こえた。
「…久しいな」
「よぉ、待ちくたびれたぜ」
振り返れば、緑色の衣を纏った、昔と変わらぬ仏頂面がそこにあった。
約束