拍手ログ

□マーガレット
1ページ/1ページ


「ぁー、終わんねぇ…!」

そう言いながら俺は勢いよく鉛筆を置いた。
先ほどから丸まっていた背をぐっと伸ばす。

「だからもっと早く始めろと何時も言っているであろう」

「だってよぉ…」

元就の言っていることはもっともだった。
明日は課題の提出日。
というのに今の今まで全く手をつけていなかったのだ。

「貴様に休んでいる暇などないわ。さっさと手を動かせ」

「動かしたくても動かせねぇから元就がいるんだろ」

「このような問題がわからぬとは呆れてものも言えぬ。貸せ」

元就は俺の問題集を引き寄せると紙にすらすらと答えを書き出していった。
憎まれ口を叩きながらも結局はやってくれるのだ。

初めは書き込まれて行く文字を見ていたのだが、その視線はやがて元就へと注がれた。


男にしては華奢な体。


やけにすらっとしている手。


すっとした切れ長の目。
加えて長い睫。


外跳ねの髪は意外とさらさらしてそうだ。


元就の全てを触ってみたい。
抱きしめたい。

そう思い始めたのはいつ頃からだろうか。
否、いつ頃からというのはないのだ。
いつの間にか目で追って、いつの間にか好きになっていた。

そんなことを考えていたら問題を解き終わった元就とばっちり目が合った。

「何だ?」

「ぁ、いや、別に…!」

気まずさからふっと目を逸らして曖昧な態度をとる。
少し腑に落ちない顔をしていたが、それ以上深く聞かれることはなかった。
内心ほっとしている自分と残念がっている自分がいる。

実際に聞かれていたら困るのだが。
心のどこかには言ってしまいたい気持ちがあるのかもしれない。
だけど言えないのは俺が臆病で、この関係が壊れてしまうのが怖いのだ。




まだ…まだ今のままでもいい。




何時か自信を持って伝えられる日が来るまで。












(この関係が壊れないように)










マーガレット
(心に秘めた愛)


[戻る]


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ