光濃

□秋茜
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素晴らしい秋晴れの日、空をたくさんの赤トンボが飛び交っていた。

私と帰蝶はそれを捕まえに原っぱに来て、飛んだり跳ねたりした。
その方法では中々捕まらず、草に止まったトンボにそうっと歩み寄ったり、目を回してみたりと、様々な方法を試みた。
しかしトンボは捕まえられない。


「捕まりませんねぇ」

「意外と速いもの」


帰蝶はトンボを目で追いながら私に言葉を返した。
その目は好奇心に満ちて輝いている。

少し休憩でもしようかと思って話し掛けたのだが、彼女にその気は全く無いようだ。


「知ってますか?トンボは同体を引っ張ると、綺麗に抜けるんですよ」

「…そんな事してどうするのよ」

「愉しいじゃありませんか」


私が得意げに言うと、帰蝶は顔を引きつらせた。
目の前でやって見せたらきっと金切り声を出して逃げるだろうと想像すると、面白くて、顔が緩んだ。


「捕まえても、絶対にやらないでちょうだいね」

「何故です?」

「可哀相だからよ」


それだけ言うと、帰蝶はトンボを捕まえに駆けて行った。
私も私で、絶対に帰蝶の前でトンボの同体を引き抜いてやろうと思い、先程より気合いを入れてトンボ捕獲に力を入れた。




「帰蝶!見てください、捕まえました!」


遠くにいる帰蝶に見えるようにトンボを高く掲げた。
トンボは羽を動かそうと必死だが、掴まれているので、それは無意味な抵抗だった。


「きゃっ!」


帰蝶が駆け寄って来たかと思うと、私の元へたどり着く前に石に躓いてこけた。

私帰蝶のところへ慌てて走っていく。
途中で、うっかり手を離してしまい、トンボは飛んで行ってしまった。


「大丈夫ですか?」

「これくらい平気よ」


彼女の膝には血がにじんでいた。


「トンボは?」

「逃がしてしまいました」


苦笑しながら答えると、帰蝶は渋い顔でそう、とだけつぶやいた。


「帰りましょう」

「トンボ、捕まえたかったわ」


帰蝶は残念そうに空を仰いだ。


「また来ましょう?」

「そうね」


私が手を差し出すと、彼女はしっかりと握り返してくれた。
そのまま引っ張って立ち上がらせると、彼女は笑顔を私に向けた。
私は何だか恥ずかしくなって顔を逸らすと、繋いだままの手を引いて歩きだした。


「今度は逃がさないでちょうだい」

「…はい」


約束された今度が嬉しくて、逃げたトンボに感謝した。

真っ青だった空は、茜色になり始めていた。







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