頂き物
□御影石
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墓石を水で洗いながら、最近の出来事を、居るはずのない人物に向かって語る。
墓前に供えた線香は、ちかちか光って燃えながら、ただ黙々と煙を上げていた。
真冬の冷水は、手に痛い。
自分が語る話声だけが、この広い寺の敷地に響いていた。
「…それで、最近お館様ったら元気なくて。お酒の飲みすぎじゃないかなぁなんて思うんですよ。」
墓石に彫られた名は、真田。
何年かぶりに此処へ来たが、この寺だけはちっとも変わっていない。
様々なことを語り尽くし、最後に再び線香に火を点けた頃、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「佐助ぇ!すまぬ、待たせたな!!」
両手いっぱいに菊を抱え、何度か転びそうになりながらも自分の元へと走り寄ってくる主人がおかしくて、少々笑ってしまった。人の墓の前では不謹慎だな、と思ったが、笑ってしまったものは仕方がない。
「旦那、大丈夫?だから俺様が行ったげるって言ったのに」
「いや、某が行かなくては駄目なのだ。何せ、この墓に入っているのは父上なのだからな。」
「親孝行、て奴?」
本当にそういうのかは知らないけど、昌幸様はきっと喜んでいるはずだ。
「…ねえ旦那」
「何だ?」
「俺様がもし、先に死んだら、」
「言うな、佐助」
「いやいやもしもの話だよ。俺様がもし先に死んだらね、墓はいらないから、旦那に花を供えてもらいたいんだ」
「某が先に死んだらどうするのだ」
「毎日ここに足を運ぶよ」
冬場の短い日差しが、西の空に傾き始めた。
「そうか」
「うん。さ、旦那。寒くなってきたから帰ろっか。」
「そうだな」
昌幸様、見ていますか。
弁丸様はこんなに大きく育ちました。
俺の大切な主です。
夕陽にて長く伸びた二人の影は、地を踏みしっかりと前へ進んだ。
「佐助、」
「何?」
「某を置いて死ぬな」
「…わかってるよ」
「それならいい」
はらり、菊の花弁が一枚散った。
御影石
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軟水の青様に頂きました\(^O^)/
私にはもったいない程素敵な文ですね!
青様、本当にありがとうございました!
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