―――あの時、お前は何て言おうとした?



「38.5℃…。完全に風邪だな。大丈夫か?オズ…」

「だ…大丈夫だと思う…」

オズは高熱と咳に苦しみながら、ギルバートの問いに返した。

ここはギルの部屋。
昨日、サブリエから帰ってきたのだが、その際雨に打たれてしまい、結果としてオズだけが風邪を引いてしまったのだ。
なのでオズはいつもどおり、ソファをベッド代わりにして寝ていたのだが、起き上がり、ギルに渡された体温計で熱を測っていた。

「…大丈夫じゃないな。ちょっと待ってろよ。」

「うん…」

ギルバートはオズの側から離れると、台所へと向かっていった。
オズはその背中を見ながら、ぼんやりと昨日のことを思い出す。

「(…昨日。)」

昨日…。サブリエに居たとき、ギルが突然走り出し、それを追ったオズは二人きりになった。

あの時…。

「お前が倒れたとしても、俺がその横でしっかりと支えてやる。だから、安心して倒れてこいっ」

不安そうに俺を見るギルに、俺はそう言ってやった。そしてギルも、冗談を返せる位まで落ち着いてきていた。

「…そういうことは、あと10p背を伸ばしてから言え…」

「あっ。何それ、すッげームカツクんだけど」

いつもの口調に戻ったギルに安堵し、コートを羽織ながら立ち上がったオズに、ギルが声をかける。

「オズ」

「…?なんか言ったか?」


「…いや……。なんでもない。」

そう、あの時ギルはオズに何か言おうとしていた。
だが、少しためらって…苦しそうに笑った。

「…(何考えていたんだ?)」
何だろう。何故か、こんなに近くに居るのに、ギルとの間に壁が出来たみたいだ。
少し離れていただけなのに…小さい頃とは大違いだ。確かに、ギルとの間に10年のブランクがあるが、まさかココまで変わってしまうものなんだろうか。

「…ズ、オズ?」

「…っ?」

「まだ本調子じゃないんだな。これ飲んで、早く寝ろ。」

「あ…うん。」

ホットミルクに蜂蜜の香り。
ほんのりとした温かさが、手の先から伝わってくる。
…今なら、聞けるかもしれない…

「…ギル。あ…あのさ。」

「ん?なんだ。」

タバコを吸いながら、オズの方に視線だけ送る。

目が合っただけなのに、何故か、次の言葉が出てこない。

「…あの…、その…」

「…?」

煙を吐き出し、不思議そうに見つめ、続きを促すギル。
もう、昔のような弱いギルではない。

過去に何か、決意したかのような目に、オズは見入られ、先ほど渡されたカップを床に落としてしまった。

「…?!!オズっ!」

「え…?あっ…あっつ!!!」

ガラスの砕ける音と、床をぬらしている液体にようやく、自分が何をしたのか気づいた。
同時に、ギルから肩をつかまれ、前後に揺すられた。

「どこかにかからなかったか?火傷はしてないのか?…おいオズ?」


「……ふっ。あははははッ」

ギルのいつもの声を聞き、カが緩んでしまった。

「おい!どうしたんだ?」

いきなり笑い出した主人に、どう対応すればいいのか、本気で困ってしまったギルに、さらに追い打ちをかけるように大笑いする。

「…!!オズ〜ッ!!」

…あぁそうか。
誰だってどんなに大人になっても、根本的なところは変わらない。
ギルだって、そうなのだ。
俺のことを一番に考えて、心配してくれて…。俺を心配させないように、何も言わない…。

…このままで、居ていいのかもしれない。

このままギルが自分から話してくれるまでは。何も聞かないままで。

一笑いした後に、オズはギルの髪に手を絡ませ、くしゃくしゃにした。
そして…

「 そのままでいてくれよ。」

「…?何を言ってるんだ?意味わからない…」

「うわっ!ミルクくさー。早く布巾もってこないとヤバイぞギル!」

「誰のせいだ!!」

「さぁ?」


そこまで言い合うと、お互いに自然と笑いがこみ上げてきた。
いつもの会話に戻ってくる。


…お前が言いたくないのなら、今は聞かない。

だから…いつか、本当のことを言ってほしい。

…それでいい。


だって、俺たちは「絶対」で繋がっている主人と従者だろ?






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いつも文才の無さが目に付く文章ですみませんww。
ココまで呼んでくださってどうもです。
さて、今回の話はパンドラです。内容的に8巻のサブリエに行った直後という設定です。
皆さんわかりましたでしょうか…。

また書こうと思っているので、また読んでもいいよって方、次お会いしましょう★

では。

2009/11/8

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