夜蝶眠って
□間章2
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趙雲は戸惑っていた。
人懐こい質の馬超と、人に対して悪意を持たない緒李。
まさかこの二人がこんなにも険悪になるとは思っていなかった。
その二人が趙雲と馬岱を挟んで外方を向いて武器を振るっている。
調練場に流れる空気は刺々しく、趙雲同様に馬岱もおろおろとしていた。
「緒李」
「なんだ趙雲殿」
何とか空気を変えようと、緒李を呼び掛けた趙雲は彼女の姿に僅かな異なりを見留めて言葉を切った。
「どうした?人の顔をじっと見て」
「あ、いや」
彼女らしくないその変異に多少の戸惑いを感じ、趙雲は恐る恐るその異なりを指差す。
「緒李のその耳…」
趙雲は再び言葉を切った。
切らざるを得ない程、彼女が反応したからだ。
「緒李どうしたんだ?」
「なな何がだ趙雲殿」
「…顔が真っ赤だよ」
趙雲は呆気にとられた様な表情でそう告げる。
その言葉で更に赤面する緒李はいつになく狼狽えており、その普段とは違う様子に趙雲の中に僅かな悪戯心が芽生えた。
「君が装飾品なんて珍しいな。
誰かからの贈り物かい?」
「!?」
悪戯っぽくそう告げたのだが、緒李は目に見えて狼狽し、その様は些か哀れに感じる程だ。
だがそんな緒李の様子に、趙雲の心中にはそれとは別のちりっとした痛みも走った。
「ばっ馬鹿を仰るな!!
そんな筈ある訳ないだろう」
その感情は緒李がむきになって言い返すと、途端に消えて無くなったのだが。
普段とは違う緒李の焦り様に、趙雲は笑いを堪え切れず、息と共に大きく吹き出した。
「なっ!!趙雲殿!
わ、笑うな」
「失礼、あまりにも緒李が狼狽えるものだからつい、ね」
「酷いぞ…」
「すまないね。
しかし、よく似合っているよ」
「そ、そうだろうか…」
自信なさげに呟く緒李に、趙雲は微笑ましい気持ちになり、優しく笑いかけた。
「あぁ、似合っているよ。
自信を持っているといい」