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□あったかプレゼント
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あったかプレゼント

「今日も冷えるな井上」
「そうだね」
学校の帰り道。
雪がちらちらと降る中、二人で歩いていた。
「こんなに寒いと、布団が恋しいね」
「確かに、そうかもな」
「布団の中って、ずっとあったかいもん」
黒崎くんが「ぷっ」と小さく笑う。
そんな会話をしていると、すぐに何かあったかいものが欲しくなって来た。ぐるぐるーって、体に布団を巻き付けたくなる。
「そういえば井上、手袋はしねぇのか?」
「え?えーっと、ほら!こうやってポケットに入れてたらあったかいし!」
「ふーん…」
正面を向いたままそっけない返事をした黒崎くん。
いきなりどうしたんだろ?
そんな事を思っていると、黒崎くんが、あたしの右手をポケットから出した。
「黒崎く…ん?」
そのまま少し引っ張られて、またポケットの中に。
さっきと違うのは。
あたしの右手は、黒崎くんの左のポケットの中。
黒崎くんは、あたしの手を握ったまま、ポケットの中に入れている。
黒崎くんのポケットの中はあったかくて。
黒崎くんの左手も、ほんのりあったかくて。
しあわせだなぁって。
なんだか実感した。
「井上冷たすぎ…」
「えへへ、そう?」
ぱっと黒崎くんの横顔を見ると、なんだかピンク色。耳までピンク色。
それを見て、思わず、くっくっと笑ってしまう。
「何笑ってんだよ!?」
「だ、だって、黒崎くん真っ赤…」
「なっ……」
余計真っ赤になる。
「い、井上こそ人のこと言えねぇぞ!?」
「えっ!?」
左手で、自分のほっぺを触る。
「えへ、自分じゃわかんない…」
なにか、二人であったかくなれる物ないかな。
今も十分あったかいんだけど。
「はうあっ!」
「な、何っ?」
あたしは良いことを思い付いて、黒崎くんはその声に驚いて。
「どうしたんだよ?」
「えへへへへ。ないしょ♪」
「???な、なんなんだ?」


いいこと、思い付いちゃった。
二人であったかくなれるように頑張らなくちゃ。


何色が良いかな?
真っ黒がいいのかな?
それともオレンジがいいかな?
青かな、赤かな。茶色かな?
手芸屋さんの、毛糸売場で迷っていた。
黒崎くんは、何色が好きなのかな。
どの色にしようか、右往左往。
あたし、黒崎くんが何色が好きなのか知らなかった…。
本人に聞いてみようかな…。
でも、サプライズにしたいから秘密にしておきたいし…。
たつきちゃんに聞いてみようかな。
でも帰ってすぐ作りたいし。

…黒崎くんなら、なんでも喜んでくれるかな?

結局、二つの色の毛糸を必要な分だけ籠に入れて、レジに持って行った。

なるべく早く、出来るといいな



学校にも、毎日作りかけを持って行った。部活でも作ろうと思って。
さすがに休憩時間はばれちゃいそうだから。
お家にも早く帰って、作りたいな。

黒崎くん、どんな顔するだろ?
ちょっと楽しみだな。
見て、何て言うかな。
喜んでくれるかな。
「井上?」
「ほぇ?」
「何考えてたんだ?」
「ううん!な、何にも!?」
「そうか?ならいいけど…」
しまった。考えすぎて、隣に黒崎くんが居ることを忘れてた。
危ない危ない。
ばれないように、ほっと息を吐く。
「そういえばもうすぐ冬休みだな…」
「えっ!?」
黒崎くんの言葉に、びっくりしてしまう。
冬休み!?もう!?
「聞いてなかったのか?さっき先せ」
「たいへん!早く帰らなくちゃ!ごめんね黒崎くん!」
「あ、ああ…?」
いそいでうちに帰って、すぐに作業を始める。
だってまだ、四分の三しか出来てないの。
冬休みまで、あと一週間。
残りの四分の一、出来るかな。


とうとう、あした冬休みだ。
「間に、合った…」
床に、ばたっと倒れる。
朝起きて、包装した。
昨日の夜、完成した。でももう瞼が限界で、明日に備えて寝た。
早く渡したいな。
かばんの中に入れて、走って学校に行く。いつもの時間より少し遅れてしまった。

渡すのは、帰り。



時間ってなんて早いんだろう。
もう放課後だよ。
もう渡さなきゃいけないよ。
心臓のどきどきが止まらない。
へんって、言われないかな。
「あ、あ、あのね黒崎くん!」
「ん?」
「どうぞっ!」
両手で、黒崎くんの目の前に突き出す。
「…え、あ。ありがとう…」
「ううううん」
まともに返事が出来ないよ。
黒崎くんの顔すら見ることが出来ない。
「開けていいか?」
何度も頭を縦に振る。
どうしようどうしようどうしよう!
「………」
「………」
「…………?」
「…………ぷっ」
…なっ。
「何で笑ったの〜!?」
「あ、いやごめん。嬉しいよ、ありがとう。でも、こ…れ」
また、ぷふふっと笑う。
「これ、こ、工事現場によくある、た、たち、立入禁止の看板に似て、るだろ…」
笑いながら、そう言った。
あたしは、自分の体温が上がっていくのが分かった。
本当に似ている。
黒崎くんの好きな色、ではなく、黒崎くんのイメージカラーを選んで作った。
黒とオレンジのしましま模様のマフラー。
黒崎くんが喜んでくれるかばかり考えて、デザインを特に考えずに作ってしまった。
「ごごごごめんなさい!」
嬉しいって言ってもらえたのに、なんだか変な気分だった。
「いや、いいよ。ただ…」
「え?」
「えらく長くないか?」
たぶん、普通のより倍の長さ。
「それはね」
マフラーをとって、まず黒崎くんの首に巻く。そのまま片方を長くとって、あたしの首に巻く。
黒崎くんの顔が真っ赤になる。
こうやって、密着してると、絶対あったかい。
「えへへ。二人用なの。だから時間も随分かかっちゃって…」
「な、なるほど……………あのさ、いいんじゃねぇか?立入禁止模様でも」
「えっ?」
一面が、オレンジ色になる。
あたしの後頭部には、黒崎くんの左手があって、背中辺りに、黒崎くんの右手がある。どちらの手も、あたしを黒崎くんの方に押してる。
触れているところは
もう一カ所。



黒崎くんの唇とあたしの唇。



まるで触れるだけのような、優しいキス。
少し、熱かった。

少し離れて、すぐ近くで、黒崎くんはこう言った。





「いいんじゃないか?俺達以外立入禁止ってことで」



それを聞くと涙が止まらなかった。
何でだろうね。
すごく、うれしかったかのかな。
…黒崎くん、


デザインを気にしないくらい、頑張ったってことだ。この上ないプレゼントだ。気持ちがこもってるからこそ、この柄になったんだ。だから、悪い意味で取ったりなんかしない。
悪い意味なんて、ないのかも知れないけれど。
井上、



…ありがとう。



――――――――――――それぞれが相手の名前の後に、「。」じゃなく、「、」が付いているので、最後のありがとうに続きます♪二人の気持ちが一致したんだと思ってください。
 

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