神喰

□ソーマ・シックザールは殺し続けている
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今日、任務で同行者の一人が死んだ。 ―ザクッ―
昨日は逃げ遅れたこどもが死んだ。 ―グチャッ―
一昨日は対アラガミ装甲壁が壊されてたくさんの人が死んだ。 ―グサッ、ボキッ、グシャ―
その前もそのまた前も、みんなみんな死んだ。
おれの目の前で。


光のない真っ暗な空間。おれの目の前にそいつは現れる。そいつの手にはナイフが握られていて、それをおれに渡してくる。
おれはそれを受け取り、腕を大きく振り上げ、目の前のそいつへと躊躇いなく振り下ろした。勢いよくやったせいでそいつを押し倒してしまう。けど、そんなことお構いなしにおれはそいつを刺し続けた。何回も何回もなんかいも体中をナイフで突き刺した。
肉が裂けて中から赤が勢いよく噴き出す。目やお腹をぐりぐりと刺せばぐちょぐちょと音がする。刺したところを勢いよく引けば裂ける。何度も何度もそいつの体を刺して切ってを繰り返す。
どうしておれはこんなことをしているのだろう?どうしてここにいるんだ?あぁ、そうだ。そいつを殺さないといけないんだ。
だって、そいつは―


バケモノなんだから。




「・・・・・」
めがさめたらしらないへやだった。しろいひとたちがいるところでもおりでもない、しらないところ。
しらない。ほんとうに?
わからない。ほんとうに?
おぼえてない。ほんとうに?
しらない、わからない、おぼえてない。
「おはようソーマ。よく眠れたかい?」
しらないひとがこえをかけてきた。めがねをかけたしらないおとこのひと。
「・・・・そーま?」
「・・そう、“ソーマ”は君だ。君の名前だよ」
「・・な・まえ」
いっしゅん、おとこのひとがかなしそうなかおをしたけどすぐにわらって“そーま”とくりかえした。
そーま?なまえ?しらない。わからない。
「君は“ソーマ”だ。“化け物”なんかじゃない」
戻っておいでソーマ。


そーま、そーマ、ソーま。

あぁ、そうだ。“ソーマ”は俺だ。


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「・・・・そーま?」
虚ろな瞳が私を見つめ少し幼くなった口調で聞き返してきた。
「(あぁ。また、この子は)」
目線を合わせ手触りの良い薄く金色のかかった白髪を梳いてやれば、こてんと首を傾げる。
「・・そう、“ソーマ”は君だ。君の名前だよ」
何度も何度も“ソーマ”と繰り返し呼び続ける。此方に戻すために何度も。
ソーマは壊れかけている。この数年間、彼を見てきて分かった。
優しすぎる子。己の全てを犠牲にして全てを守ろうとする。守れなかった時は全ての悪意を小さな身体で背負い込む。
それが徐々に積み重なり、許容限界を超えてしまうと強制的に眠りストレスを消化していた。
だが、何時しかそれだけでは消化が追いつかなくなり、今では夢という形で自分自身を殺し続けている。自身(心)を殺すことで精神を安定させようとしているのかもしれない。
心を殺された身体は空っぽになりただ息をするだけになる。最近ではその時間が長くなった気がする。
何度も呼びかけ心(ソーマ)を呼び戻す。早く戻さなくてならない。でないとこの子は本当に壊れでしまう。
「戻っておいでソーマ」
ソーマ、ソーマ。君は化け物なんかじゃないよ。君は望まれて生まれたんだ。
頼むソーマ。戻って来てくれ。


「・・・・・はか・せ?」
小さな小さなか細い声に私は勢いよく顔を上げた。そこには虚ろな瞳は無く、綺麗なアクアブルーの瞳が不思議そうに私を見ていた。
「メディカルチェックの後中々起きなくて心配したんだよ」
「そうだったのか?」
嘘だ。ソーマは自身がこうなっていることを知らず気付いていない。それはこの子自身の自己防衛の一種なのかもしれない。
もし、この事に気付いてしまったらどうなってしまうのか。考えただけでゾッとしてしまう。




「おかえり、ソーマ」


願うなら、誰かこの子の心を救ってくれ。




end
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