Short Story

□キミがいて
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「なまえ、お腹すいた?」



「すいたぁ!」





小さな手を握りながら景織子は微笑み、日傘を持ち直した。




季節は夏
BGMは蝉の泣き声。




景織子には蝉はうっとうしく感じたが、隣りでトコトコ歩く娘を見れば夏も捨てたものじゃないだろう




娘のなまえは片手には自分の体の半分もあるバスケットボールを抱え、もう片方はアイスを持っている




「なまえ、垂れるわよ」



「とけちゃう〜!!!!」





ドロドロのアイスを懸命に食べるなまえを日傘に入れる。



女の子だというのに短く切ってある黒髪。膝や腕、頬に擦り傷や絆創膏だらけ
周りからは可愛い男の子としか見えないだろう




「早く、帰ろっか」




「ママ待って〜!!!!」




少し歩く速度を速めると、なまえは必死についていく




「…きょーこちゃん?」




「……?」





なまえと手を繋いで、もうすぐ家に着くというところで不意に名前を呼ばれ、景織子は振り返った




「…千歳?!」



「やっぱりきょーこちゃんだぁあっ!!!!」





栗色の髪をなびかせ、千歳と呼ばれた女性は夏場だというのに、景織子に抱き着いた




「あんた…え、戻ってきてたの?!」



「うん、結婚して地元に戻ってきたのよ?」





千歳は白い帽子をなびかせながらニッコリと笑った
なまえは状況が飲み込めず、2人を見つめながらアイスを口に入れていた




「…あら、きょーこちゃんの娘…さん?」



「娘よ」





やはり、なまえの性別はパッと見じゃわからないだろう




「お名前は?いくつ?」




「なまえ、5さい」





片手を広げ、歳を表すなまえを見て千歳は嬉しそうに笑って小さく拍手をする




「私の子供と同い年!」




「千歳、あんた子供いるの?」




驚く景織子に千歳はニッコリと笑って、後ろを振り返る。
そこには、千歳のワンピースを掴んで隠れている子供がいた





「お名前は?」



「…っ!!!」





千歳の子供は恥ずかしそうに景織子から目を逸らす
真っ黒で微妙に長い髪、真っ白な肌に大きな目、そして長い睫毛





「可愛い女の子ね」



「男の子なの」



「…え!?」





景織子は驚きながら千歳の足元にいる子供を見つめる
たしかに言われてみれば男の子のようだった




「名前は楓、5歳なの」




「かえでー?」




なまえは千歳の元へ行き、楓を覗き込むように近づく。すると、楓は逃げるように反対側へと歩みよる




「照れ屋さんなの」




「ふふ…あ、千歳…寄ってく?」









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