百人一首 恋歌でパロ

□明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな
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「そろそろ帰らないとなぁ。
土方さん、最近、門限厳しいし。」

『もう帰ってまうの?』

「君だって明日も早いんでしょ?
踊りや琴の稽古あるんだろうし。」

『…そうどすなぁ。』



そうして今日も沖田はんは帰ってしまう。

叶わぬ恋。

私には借金がある。
だからこうして島原で芸妓をしている。
芸妓としてやっていくために着物や簪なんかを買うと、ますます借金は膨れ上がっていく。

きっと私は一生島原から出られないだろう。
それこそ、身を売ってえらいお侍はんにでも気に入って買ってもらえん限り。


舞妓や芸妓に普通の恋なんてできない。
わかってる。
所詮、朝晩が逆転した世界で、男に貢ぐように仕向けるだけ。


だが私はこの男、沖田総司に惚れてしまったのだ。


最初は本当に、本当にただの芸妓と客、という立場で。

だが、ある日、

「ねぇ、君の話も聞かせてよ。僕の話ばっかじゃつまらないしね。」

なんて言われて、…私が話すことなんて何もないのに。
ちっとも面白くない芸妓の話を聞きたいというのだ。

変わった人だ、と思った。
だが不思議と嫌ではなかった。
商売云々を抜いて、ただ素直にこの人との会話が楽しいと思っていた。

…それがいつの間に恋慕に変わっていたのだ。


恋慕だと気づいてから、さらに別れがつらくなった。

朝がくるのが恨めしくなっていった。
ずっと夜が続けばいいのに。






(夜が明ければ必ず日が暮れて、また再び貴方に会えることはわかっている。)
(わかっているけども、やはり別れの朝はつらい。夜明けの薄明かりが恨めしいものですよ。)

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