短編とかイラスト・画像など

□からっぽの病室
1ページ/2ページ


───────

待って、
行かないで…、

そう言えたらいいのに。

───────



病気が発覚したのはいつのことだったか。


思い出せないくらい毎日が長い。


毎日毎日ベッドの上。


そんな私の唯一つの楽しみが彼だった。


彼が来てくれるときだけ、時間は短く感じる。


他に何もない。


人生なんて決して華やかなものじゃない、私は身を持って感じた。


……いや、感じざるを得なかったのかもしれない。


面会時間終了ギリギリまで病室にいてくれる彼。


彼が去った後の病室には、孤独という虚しさだけが残る。

その後、すぐに夜がやってくる。

その夜が異常に長い。



彼はこんなところに来たって何も楽しくないだろう。


それでも毎日彼は足を運んでくれる。

それが嬉しい。


そして同時に、哀しさを憶える。


看護婦さんに
面会時間は終わりですよ、と告げられたときの彼の顔。


いや、そのときの私の顔を見た彼の顔が一瞬悲しげに歪む。


なんとなく、彼が無理して笑ってるのは解る。


そんな顔も、本当はあまり見たくない。


でも、彼に笑っていてほしい。

心からの笑みが見たい。


でも彼を心から笑わせてくれるのは…、きっと、ベッドの上の私じゃない。


それでも一緒にいてほしい。

私を捨てないでほしい。



そんな矛盾が心を渦巻く。



「───…待ってるよ」



自分の矛盾を隠しながら、彼が去った後のドアを見つめて呟いた。






end
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ