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□からっぽの病室
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待って、
行かないで…、
そう言えたらいいのに。
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病気が発覚したのはいつのことだったか。
思い出せないくらい毎日が長い。
毎日毎日ベッドの上。
そんな私の唯一つの楽しみが彼だった。
彼が来てくれるときだけ、時間は短く感じる。
他に何もない。
人生なんて決して華やかなものじゃない、私は身を持って感じた。
……いや、感じざるを得なかったのかもしれない。
面会時間終了ギリギリまで病室にいてくれる彼。
彼が去った後の病室には、孤独という虚しさだけが残る。
その後、すぐに夜がやってくる。
その夜が異常に長い。
彼はこんなところに来たって何も楽しくないだろう。
それでも毎日彼は足を運んでくれる。
それが嬉しい。
そして同時に、哀しさを憶える。
看護婦さんに
面会時間は終わりですよ、と告げられたときの彼の顔。
いや、そのときの私の顔を見た彼の顔が一瞬悲しげに歪む。
なんとなく、彼が無理して笑ってるのは解る。
そんな顔も、本当はあまり見たくない。
でも、彼に笑っていてほしい。
心からの笑みが見たい。
でも彼を心から笑わせてくれるのは…、きっと、ベッドの上の私じゃない。
それでも一緒にいてほしい。
私を捨てないでほしい。
そんな矛盾が心を渦巻く。
「───…待ってるよ」
自分の矛盾を隠しながら、彼が去った後のドアを見つめて呟いた。
end