白兎と冷酷人間

□巡る巡る思考
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朝食、ご飯に焼き魚に味噌汁。そんなどこでもありそうなものだけど、まあこんなんでいいかと思いながら味見をしていれば、後ろで扉が開く音がした。


『おはよーございます。』


返事は当たり前に返ってこない。フェイタンは低血圧で朝にとても弱い。何時もこれくらいの時間に何故か一回起きて、そしてまた寝る。少しフラフラしてるフェイタンに私は微かに笑う。もちろんフェイタンにバレないようにだ。


「何してるか…。」

『あ、朝食作ってたんです。起きた時に温めるんで後で言ってください。』


それだけ言って、私は鍋に視線を戻す。すると後ろで扉の閉まる音ではなく、ポスリと何かが着地した音が聞こえた。え、もしかして壁に寄りかかりながら寝た?
恐る恐る振り返れば、無言でソファに座るフェイタンが居た。そこで寝ちゃうの?だったら私、フェイタンが起きるまで細心の注意をしなきゃいけないんだけどな。


「早くするね。」

『え?』

「朝食早く出すね。」


ギッと睨んでくるフェイタンは低血圧のせいで何時もより更に怖い。これは早く朝食を出さないと死亡フラグですか。朝食にこんな命が左右される私って…!


『はい、どうぞ。』

「あれはどうした。」


どれの事だ。
お前大事なもん忘れてるぞ、と言わんばかりの表情で見てくるフェイタンに私は朝だというのに思考をフル活用だ。あれ…あれ…あれ…どれ?
暫し沈黙の空間にフェイタンの舌打ちが響いた。視線は冷蔵庫。


『…あぁ!杏仁豆腐ですね!』


それは昨日クロロさん達が来た夕飯の後に出したもの。クロロさんは何故プリンではない、と嘆いていたくせに2個ペロリと食べてしまったやつ。フェイタンも無言で2個食べてたっけ。


『あれはもうないですよ?』

「あ?」

『ヒイッ!ご、ごめんなさい!ならお昼までには作ります!』


90度に頭を下げた私にフェイタンはフンと鼻を鳴らしただけで済んだ。なるほど、私の命は杏仁豆腐にかけられているのか。杏仁豆腐ごときに私の生命線が…。止めよう虚しくなってきた。向かいのソファに座って私も朝食を食べ始める。カチャと食器の音が響くだけの空間だけど、別に気まずくないしむしろこんな時間が続けばいいなあ、と思うくらいだ。…ん?何で続いてほしいんだろ?
うーん、と考えていると前からフェイタンに声をかけられる。


「マチは何時来るか。」

『確か昼頃にって…』

ピンポーン

「……。」

『言ってたんですけどねぇ…。』


あははは、と笑いながら、未だに連打されているインターホンに足早に玄関を開ける。開けた先にはマチちゃんと後ろには簡易ベッドらしきもの。


『おはよー。』

「おはよ。…アンタ誰かも確認しないで玄関開けるの止めな。」

『マチちゃんの匂いがしたんでちゃんと確認してるよ。』

「どんな確認だよ…。」


溜め息つきながらヒョイと簡易ベッドを持ちながら入ってくるマチちゃん。まさか自力で運んできたのか。それはやっぱり的中して、家から持ってきたみたいだ。なるほど、だから人が少ない朝にしたんだね。
そしてフェイタンの家に入って、ソファでご飯を何事もなかったように食べているフェイタンを見て、マチちゃんは微かに驚いた表情をする。


「珍しい事もあるんだね。フェイタンが何もない日にこんな早起きするなんて。」

「…気まぐれね。」

「気まぐれ…ねぇ…。」

「とやかく言われ筋合いないよ。」


何か文句あるのかと言わんばかりにジロリと睨むフェイタンに、マチちゃんもキッと睨み返す。今にも戦いの火蓋が落とされそうな勢いだ。こんな時間は続いてほしくない。むしろ終わってくれ。てか何でこんな事になってしまったんだ。


『あ、あの!マチちゃんベッドありがとう!』

「あぁ、気にする事じゃないさ。あ、団長からルカに伝言で近々アジトに来いだってさ。」

『まさかあの人、プリン作ってもらう為に呼び出したんじゃないだろうな…。』

「ごめん、否定出来ない。」


天下の幻影旅団様の頭がプリン大好き人間なんて絶対に想像出来ないや。まずあんな極悪人がプリンを食べてる姿…。シュールだ。


『なら明日にでも行ってみます。』


マチちゃんからベッドを貰い、あまり片付いていない自室にベッドを置く。どうやらこの部屋は幽霊とかそういうものは出ないみたいだし、これからはこっちで寝れるよ。良かった良かった。


「へぇ…ここがルカの部屋かい?」

『そーなんです。まだ片付いてないですけど…。』


ベッドに座るマチちゃんに言えば、ジッとこちらを見てくる。


「フェイタンとはどうなんだい?」

『へ…?うまくやっていけそうですよ。皆さんそんなに興味ありますか?』

「まあね。(まだ進展はなしか…。)」

『あ、でも前よりかはフェイタンとちゃんと会話出来るようになりました!』

「そうかい。じゃあ明日ね。」


そう言うマチちゃんは私の部屋の扉を開けて、チラリとフェイタンを見た後に帰っていった。


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